2020年3月10日(火)

▼地味な試合だった。レスリングの東京五輪日本代表を決める女子69キロ級プレーオフは、テレビのニュースで見ただけだが、土性沙羅選手の勝利を確信する鮮やかなシーンはなかった。むしろ、終盤で相手選手のタックルを受け、場外にはじき出された時はヒヤリとした

▼レスリングとはもともとそうした派手さのないスポーツなのかもしれないが、土性選手はことさらそう努めたのではないか。故障の後遺症のせいもあろうが、得意の両足タックルのような大技を仕掛けようとせず、確実に得点を稼ぐ戦いぶり。金メダルに輝いたリオ五輪当時と比べて半分程度の力、という自覚が、結果的に堅実な作戦を選んで、これ以上の晴れ舞台は生涯ない東京五輪の切符を引き寄せた

▼むろん、実力の差がはっきり現れる戦い方でもあろう。「人生をかける」として臨んだ試合で、昨年12月の全日本で大敗した相手に雪辱を果たした。相手選手のセコンドに五輪4連覇の伊調馨選手がいて、土性選手側に、打倒伊調を果たしたリオ五輪金の川井梨紗子選手と、同金で東京五輪代表を逃した登坂絵莉選手という至学館大OBがいたというのもおもしろい

▼パワハラ問題などで至学館大監督を解任された栄和人氏が昨年再任した。同問題で、女子レスリング全体も大きく影響を受けた気がする。土性選手の復活で、至学館勢が再結集したかの感。一方、伊調選手が練習拠点としてきた日体大の相手選手も、4年後の出場を誓っている

▼確執を超え、ライバルとして競い合う関係になれば最善の雨降って地固まる。両者の健闘をたたえたい。