2020年2月24日(月)

▼「裁判官は乗り降り自由」というのは、裁判員制度開始のころ、津地裁判事から聞いた話だ。合議に支障になるのが、一度主張してしまった説に固執する感情。納得できる説にこだわりなく乗り換える。それが結論をまとめ、真実に近づくことにもなるというのだ

▼関西電力大飯原発の再稼働差し止め判決を出した福井地裁元裁判長が桑名市で講演し「原発を止める本当の力を持っているのは住民だ」と語った。東電福島第一原発事故の責任の一端は、国策だとして原発反対派の訴えに耳を貸そうとしなかった司法にあるとされている。以降、差し止め判決も出るようになった。「乗り降り自由」の裁判官が増えてきたということだろう

▼福井地裁元裁判長の差し止め判決も二審で棄却され、住民敗訴が確定した。原発を止める力を持っているのは住民か、裁判所か。中部電力が断念した芦浜原発建設計画について「住民が信念を持って一致団結すれば(原発を止める)大きな力になる」。が、同計画を白紙撤回した北川正恭知事(当時)は住民が賛否で二分された状態をこれ以上見過しにできないことを理由にあげた

▼37年間の芦浜原発の激論を元裁判長が短時間で的確に総括できるはずがないのは当然。元裁判長の講演に期待するのは、よく知るはずもない芦浜原発計画についての”実相“ではなく、自身の信念に基づく差し止め判決がいまだ司法の場では少数派で、その理由あるいはそこで住民はどうすれば”本当の力“を発揮できるかの方法論ではないのか

▼専門家が専門外でいつも卓見を紡ぎ出せるはずもない。