伊勢湾台風60年-中- 断水も、命の危機に直結 行政と施設で体制作り必要

【伊勢湾台風の強風で倒れた松の大木。同規模の台風が来れば、送電鉄塔の倒壊の恐れがある=桑名市安永で(桑名市立中央図書館提供)】

災害時の停電は通信手段がなくなるなど、様々な問題を引き起こす。中でも、治療に電気と水が必要な透析患者にとっては、命の危機に直結する問題だ。台風15号による停電が長期化する千葉県では、透析施設間で患者の移送と受け入れを行うなどの対応を取った。伊勢湾台風と同規模の台風を想定すると三重県では停電は免れないとされており、専門家は「千葉県の事例から1カ月の停電を想定し、患者を被災地域の外へ出す体制作りが必要」と指摘する。

三重県透析施設災害対策委員会の委員長を務める武内病院(津市)によると、1回の透析に必要な水は浴槽1杯分に当たる約120リットル。治療には4時間ほどかかる。食事制限などで回数の調整はできるが、頻度は2日に1回が望ましい。同病院には約360人の透析患者がおり、1日に45トンの水が必要だ。県内には平成29年末時点で約4600人の透析患者がいる。

透析の間隔が空くとどうなるか。患者が常に注意を払っているのは血液中のカリウム濃度。通常は腎臓の働きで尿として排出され、適正濃度が保たれる。だが、透析患者は腎臓の働きが悪いため排出がうまくいかず、濃度が上がりやすい。カリウム濃度は高くても低くても心臓に悪影響を及ぼす。不整脈につながり、突然死の恐れもあるという。

透析歴28年の黒田浩代さん(48)=同市=は週3回、武内病院に通院。「透析ができないと毒素が溜まってむくみが出る。ひどくなると『肺がおぼれる』ような息苦しさを覚える」と話す。むくみを抑えるため、水分や塩分の取り過ぎには常に注意している。

透析患者は普段から食事制限をしており、避難所生活を送るのは難しい。食事は持参しなければならないのが現実だ。黒田さんは停電が長期化すれば県外に住む人工透析をしている友人を頼ろうと考えており「千葉では透析患者はどうしているのか、三重で起きたらどうなるのか」と語った。
■    ■

24日午前11時現在、一部地域で停電が続く千葉県。強風で鉄塔が倒れ、倒木や飛来物によって電線や電柱が損傷したほか、停電による断水も発生した。

同県館山市の原クリニックでは九日―11日夜まで停電が続き、約120人の透析患者を他の透析施設へ移送した。インターネット上で確認できる日本透析医会のネットワークを使い、停電を免れた施設を把握。クリニックが患者を集め、バス会社に他の施設へ移送してもらった。電源車の手配もあったが、専門業者がいないため機能しなかったという。

原徹院長は「通信が無事だったので助かったが、途絶していたら職員が患者宅を回って安否確認をしなければならなかった。自宅から出たがらない高齢の患者が多い」と語った。
■    ■

伊勢湾台風では送電鉄塔や電柱が倒壊し、県内全域が停電した。中部電力によると、台風通過から約2週間後の10月8日にほぼ復旧したという。ただ、海抜0メートル地帯では堤防の決壊で浸水状態が続いたため、停電が長期化したとみられる。中電三重支店の担当者は「伊勢湾台風と同規模の台風が来れば停電は避けられない」と話す。

県内では昨年9月の台風21、24号でも広範囲に渡って停電が発生。21号による停電は最大61時間半続いた。同月には道内全域が停電した北海道胆振東部地震が起き、災害が引き起こす停電の問題が浮かび上がった。だが、県内では昨年9月の台風を教訓に行政と透析施設間の連携が進んだ気配はない。

武内病院の尾間勇志透析部長は、行政職員の定期異動を理由の一つに挙げ「担当者が変わると一から説明しなければならない。救急患者の陰に隠れ、透析への対応は見過ごされている」と指摘する。

停電時の対応で優先順位が高いのは透析に不可欠な水の手配だ。尾間部長は「断水が起これば市町レベルの給水車では意味がなく、自衛隊に出動してもらわねばならない」と強調する。

自家発電についての支援も課題の一つ。同病院では停電時、自家発電装置が自動で作動する仕組みになっているが、燃料となる軽油の補充がなければ約8時間が稼働の限界という。軽油の備蓄はなく、付近のガソリンスタンドに優先的に軽油を提供してもらうよう話を付けている。

災害弱者のための地域防災を研究する愛知県立大学看護学部の清水宣明教授(コミュニティケアシステム)は「停電が長期化すれば、患者を地域ごとに1カ所に集め、停電エリアから脱出させる仕組みが必須。愛知など近隣県も被災するので、外からの応援を期待すべきではない。災害時、三重県は陸の孤島となるので事前に備えておかねばならない」と指摘している。