2019年6月3日(月)

▼「百聞は一見にしかず」が百回聞くより自分の目で一度でも見た方が確かという意味だということは誰もが知っている。時は紀元前700年余の中国。帝から遊牧民族鎮圧の戦略を聞かれ、歴戦の強者、70歳余の老将軍がそう応えたのが由来

▼若輩者が一度見たぐらいより百聞の方が確かということもあろう。この節の「一見」は写真や映像も含まれる。「この目で確認した」というので詳しく聞くと、ニュース映像だったりする。「一見」とは違うと言ってもほとんど同意は得られない

▼昔、四日市のゴルフ場経営者と桑名の金融機関がゴルフの会員権を巡って争いになったことがあった。ゴルフ場経営者が金融機関の担当者と協議しているビデオテープを数本見せられた。紳士的会話の中で、担当者は、ゴルフ場経営者の言い分を全面的に認め、争いの大部分は自分が成績を上げたいためにその場限りの約束をしたり、虚偽の回答をしたことが原因だと述べ、謝罪文も提出していた

▼金融機関トップはしかし、その中に出てくる自分の発言や指示をほぼ否定した。真相はやぶの中だったが、担当者はゴルフ場経営者に逆らえない事情があることが、のち分かった。取り調べ可視化を定めた改正刑事訴訟法が施行された

▼密室の取調室の中にカメラ、録音機が入るのはいいことだが、相対する2人の力関係や録画前の状況で内容は違ってくる。裁判員裁判開始当初、検察側に比べて弁護側の弁論技術が劣り、被告に不利に働いたとされる。取り調べの問題からスタートした可視化への検察警察の一転した意気込みが気になる。