2019年2月11日(月)

▼伊勢市の父親が中2の息子の顔面を拳で複数回殴ったとして傷害容疑で現行犯逮捕された。110番通報したのは息子本人だった。「親に殴られた」。殺伐とした世の中になった

▼人並みにかどうか。親には随分殴られて育ったから、親の暴力自体世の変遷とは思わない。顔面はなかったが、頭にげんこつはよくもらった。腹を蹴られて一瞬息ができなくなったことも。友人とのけんか沙汰では、パンチや蹴りを受け流すのがうまくなった

▼ただ、周囲の狭い見聞の範囲だが、相手はほとんど母親で、父親のケースはほとんどなかった。教育は母親の責任という分担論が子どもにとっては幸いだったか。父親は小5の時、一度体験したが、打撃の強さは母親の比でなかった

▼栗原心愛さんと船戸結愛ちゃん―悲惨な虐待死が続く。2人の名に「愛」の字が入っていることに胸がつぶれる。家庭事情は異なるが、ともに愛されて生まれてきたのに違いない。愛する心を持つように、愛を結ぶ人になるように、そんな親の願いが透けて見える気がする

▼産後うつを体験した母親から話を聞いたことがある。子育てへの思いが原因で育児放棄状態になり、子どもと引き離された。あのままだったら子どもを殺していたかも知れないと振り返っていた。父親が育児に執着したらどうなるのか

▼せっかんされるたび原因は自分にあることは自覚していたが、勢いは次第に狂的になり、しつけと呼べるような生やさしいものではなかった。暴力とはそういうものに違いない。虐待死させた父親2人は「しつけ」と言う。伊勢市の父親もまた。