<まる見えリポート>国登録文化財「土井見世邸」 仕事、交流、学びの場に

【帳場の改修作業に取り組む学生ら=尾鷲市朝日町の土井見世邸で】

尾鷲市初の国登録有形文化財で、昭和初期建築の和風モダン邸宅「土井見世邸」の活用方法について、邸宅を管理するNPO法人や住民らが検討を進めている。邸宅を「シェアオフィスにしよう」という声が上がるほか、一部を改装してカフェやバーを作り、住民らが集える場所にしようとする動きもある。

土井見世邸は、江戸時代から山林経営で栄えた土井家の分家・見世土井家が昭和6年に建てた。木造2階建てで、1階と2階を合わせた延べ床面積は623平方メートル。主屋は東側が洋館、西側が和館。主屋や米蔵、土塀など9件が平成27年8月、国登録有形文化財に登録された。

邸宅は、11代目当主の土井啓右さん(42)=愛知県名古屋市=らきょうだい4人が共同所有しているが、全員市外にいるため、29年6月からは空き家バンクなどに取り組むNPO法人「おわせ暮らしサポートセンター」(同市朝日町)が賃貸契約を結び管理している。

同法人理事長の木島恵子さん(52)や啓右さん、住民らが「邸宅を使って何か取り組めないか」「コンビニや飲食店が近い市街地にあるため、学生や会社員が利用するワーキングスペースにしてはどうか」と着想。

同法人は昨年8月には、東京大学が自治体の課題解決策を提案する「フィールドスタディ型政策協働プログラム」の一環で、東大院生の大友勝夫さん(23)と東大生の小川智貴さん(22)を受け入れた。2人は同市に3週間滞在。地元住民らに邸宅の活用方法について聞き取り調査を実施した。

2人は調査などを踏まえ、同法人や市職員、地元住民らと活用方法について協議。展示場やゲストハウスといった意見も出たが、民宿にするには旅館業法などの課題や、県に用途変更届が必要なことから、当面はシェアオフィスとして検討するとした。

2人は2月には邸宅の活用方法について最終報告会を開く予定で、大友さんは「市に貢献できる新しい拠点づくりをしたい」、小川さんは「歴史のある建物を残していけるように取り組みたい」と話している。

邸宅は、同法人の空き家利活用事業の一環で、県外の学生たちも改修作業に取り組んでいる。

昨年12月には、大手前大学(兵庫県)副学長でメディア・芸術学部の川窪広明教授(63)のゼミ生8人が、2泊3日の日程で土井見世邸を訪れ、地元の人と一緒に傷んだり穴が空いていたりした床板の撤去作業などに当たった。学生らは同年9月に一度訪れており、2回目の改修となった。

邸宅について、川窪教授は「当時では珍しく、木と鉄を組んで補強していたり床下すべてにコンクリートが敷かれていたりするので基礎の造りがしっかりしている」と話す。

学生らが改修している「帳場」と呼ばれる主屋一階の場所は、林業を営んでいた時代の事務所で、職人に給料を渡していた場所だった。啓右さんは「帳場は唯一、外部と内部の交わりがあり、邸宅の象徴的な場所と感じている」とし、「帳場を改修してバーを開くと面白いのでは」と提案している。

学生たちは啓右さんの提案を受け、カフェやバーとして住民らが集える空間になるよう設計していくという。3年の吉野琢馬さん(21)は「文化財の改修に携わることができてうれしい」と話し、同横田早耶さん(21)は「地元の人や市外の人も気軽に訪れることができる空間をつくりたい」と意気込んでいる。学生たちは4月以降も邸宅を訪れ、床の張り替えなどを予定してる。

土井見世邸を巡っては「尾鷲のために保存、活用してほしい」と土井啓右さんらが市に無償譲渡を決め、27年9月に啓右さんと岩田昭人前市長とで合意書を交わしたが、市側は「財政難で取得後の維持費や耐震補強費などの捻出が困難」などと合意を破棄した経緯がある。

市の担当者は土井見世邸について、「市の文化財として所有者の意向に沿って保存や維持管理に協力していきたい」と話す。

啓右さんは「仕事、交流、学びの機能を持たせ、地域に根づいた建物として未来に存続させていけたら」と願っている。