2018年12月16日(日)

▼「さまざまな意見を出し、皆で納得して決めた」と、東名高速の「あおり運転」判決で、裁判員を務めた女性は振り返りながらも「法律にあてはめるとどうしてこうなるのか、もっと融通がきかないかとも思った」と語ったという。懲役18年の量刑について「毎日葛藤しています。まだ整理がついていません」とも

▼これが「納得して」と言えるかどうか。「公平に見なければいけない」というバイアスが働き、了解はしても不本意な思いが消えない。そんな潜在意識が言葉になったと言えなくはない

▼「公平に見なければいけない」というのは裁判員を務める者の当然の責務だが、具体的には職業裁判官から示されるのだろう。裁判員制度になってからの量刑の厳しさは再三指摘されている。裁判官が特に力を込めて説いたことは想像できる

▼判決は危険運転致死傷罪が適用されたが、検察側の「高速道路では低速運転、停車も危険運転」という主張は退け、幅寄せなどの危険運転が停車後の死亡事故につながったという一連の流れとして捉えた。求刑および世論の結論部分を受け入れ、運用の拡大には歯止めをかけた

▼いかにも専門家らしい知恵である半面、難解な裁判を国民の身近なものにするという裁判員制度の趣旨に逆行するのではないか。時速ゼロが「一般的、類型的に(危険を生じさせる速度と)読み取ることは無理だ」という判決は、高速道路の事故を裁く例えとしてふさわしいとは言えまい

▼求刑から5年削った理由を明示していないことと併せ、国民の身近な司法へ裁判官はいま一度努力を願いたい。