大観小観 2018年5月2日(水)

▼ベッドでの娘の介添えで用を足すのを「武士のすることか」と嫌がり、トイレに駆け込もうとする父を「死んでも知らないから」と叫びながら追いかける―作家佐藤愛子さんの自伝的エッセーに出てくる修羅場だが、テーブル型の手すり付きトイレを開発した介護総合研究所「元気の素」の上野文規代表の「利用者の尊厳を守るため自力の排せつを支援すべき」という説には共感する

▼テレビCMでは紙おむつ着用がいかに安心で快適かのアピールが盛んだが、その効用は効用として、人間の尊厳を守ろうという最後のとりでは、自力でトイレに行こうとする気力ではないかと思うのである

▼介護施設では利用者におむつを着用させるのが主流という。「おむつ交換は排せつケアではない、後始末」という上野さんの指摘が心地よい。気力をいかに持続させるかが介護の要諦であり、排せつケアは、そのための有効なツールであることは違いあるまい

▼テーブル式は、立ち上がる際に手を置くことで腰を浮かせることができ、手すりより安全性が高いというのも、父が半身不随になった時にトイレに付けた手すりが役に立たなかった苦い思い出を想起させる。介護職員の負担軽減というのは自宅介護でも当てはまろう

▼写真で見るトイレ空間が広々と感じるのも好ましい。東京五輪・パラリンピックでトイレ問題が問われているが、身障者だけでなく、LGBT向けに更衣室も兼ねた多目的・多機能トイレが時代のすう勢でもある

▼社会的弱者向けに考案されたツールがダイバーシティ推進の根底を支えるのは言うまでもない。