2018年2月21日(水)

▼裁量労働制に関する国会審議が迷走している。原因が厚生労働省のずさんな調査にあることは当然だが、菅義偉官房長官ら政府高官が「極めて不適切」などと厚労省を批判するのには違和感がある。より大きくしたのは安倍晋三首相であり、歴代の厚労相なのだから

▼特に安倍首相は「裁量労働制で働く人の労働時間の長さは、平均的な人で比べれば一般労働者よりも短いというデータもある」と、聞かれもしないのに答えて撤回に追い込まれた。言わずにいられなかったのはご性格だろう

▼裁量労働制は、あらかじめ設定した残業代で賃金を支払う制度。専門性の高い職種の働き方に適している、その方が人件費の抑制になる―の二面性がある中で、経済界の期待が強いのは後者のため。反対が強いのもまた、後者のためである

▼過労死への一里塚と攻勢を強める野党へ、裁量労働制の方が労働時間が短いというデータは効果的なカウンターパンチだ。3年前に当時の厚労相が引用した時、そんなバカな、とは思わなかったのだろう。よし、自分もと、頭に刻み込まれたのかもしれない。好事魔多し、である

▼へぇー、そんな職種もあるのかねえぐらいに思えば、もう一歩踏み込んで、どういう職種か、事務方に尋ねる気も起きたのではないか。より強烈なカウンターパンチになる可能性があるのである。聞いていれば少なくとも撤回の恥をさらさずともすんだのではないか

▼労働の実態について、首相は実感としては知らないのだろう。誰もがおかしいと思うことを、おかしいと感じない。労働実態についても、かどうか。