2017年6月21日(水)

▼「今度こそはのリベンジだ」と鈴木英敬知事が歴代連勝記録一位タイをかけて戦う中学3年生棋士・藤井聡太四段の対戦相手、澤田真吾六段にエールを送ったのは鈴鹿市出身だからということだが、「三重県人としては二十八連勝を澤田六段が止めたということになれば」。うまい政策でも思いついたか

▼将棋界は早熟の天才、鬼才がひしめく場。二十八連勝が必ずしも大成を保証するものではあるまいが、やはり中学生棋士となった羽生善治王位を筆頭に強豪が集った羽生世代は、それまでの壁をいとも軽々と乗り越えていった

▼藤井四段の連勝の初戦が、それまでの最年少プロ棋士記録保持者で「神武以来の天才」とうたわれた加藤一二三九段。優勢に進めたが終盤、巻き返され「素晴らしい才能の持ち主。渋い手とシャープな手の両方を持っている」とたたえたそうだが、かつて中原誠十六世名人が次々にタイトルを獲得していったころ、「大山さん(康晴十五世名人)の全盛期を知らない」と言ったといわれる。名人は確実と言われながら巨星大山の前に何度も跳ね返された苦渋がにじむ

▼羽生世代の出現はコンピューター活用時代の到来でもあった。棋譜が効率よく一覧でき、棋力は格段に向上した。今や名人が人工知能に敗れる時代。コンピューターが計算、記憶媒体としてではなく、自身一兆回もの対局を繰り返し、最善手を導くという。人間の棋力にも劇的な変化が出てくる時代かもしれない

▼加藤九段は棋譜は紙でしか見なかったという。古武士の風格だが、近代戦の前には消えゆく運命ではあるのだろう。