
三重県鈴鹿市安塚町の「大邦興業」は、父の故邦男さんが昭和58年に同市東玉垣町で創業した「鈴浄会」が前身。当初は市内を中心に一般家庭ごみや産業廃棄物の処理に携わり、数年でエリアを県全域から愛知県へと拡大してきた。平成10年に法人化し社名を改めた。
平成27年に亡くなった父から経営を引き継ぎ、創業時から父を支えてきた母恭子さん(80)が会長となった。「邦ちゃん」と親しまれた父が、長年にわたって積み上げてきた信頼と実績で顧客が離れることはなく、新たな顧客も増え、奈良県にも進出を果たした。
「お客様と共に循環型社会を創造し、地球規模での環境保全に貢献する」ことを社の精神として掲げ、役員と社員17人が心を一つにして、常に顧客の視点に立って働いている。令和4年、現在地に新社屋と工場を新築移転した。
事業所から出る使用済みの蛍光灯や乾電池などの水銀系廃棄物は市で処分できていたが、平成29年の廃掃法改正で産業廃棄物扱いとなり有料となった。困っている事業所向けにSNS(交流サイト)で処分料金の提示をして呼びかけたところ、個々で処分するより安価だと全国規模の企業からも依頼が殺到。それをきっかけに他の廃棄物処理の受注も増加した。
「常にアンテナを張り、同業他社に先駆けてサービスを打ち出せたことが、業績向上につながった」と話す。
昨年から、プラスチックを材質ごとに分け、溶かして材料に戻すマテリアル化が自社では困難な企業に、選別業務のベテラン社員を派遣するようになった。企業担当者から「スムーズな選別で、リサイクルに貢献できるようになった」と喜ばれている。「人材不足もあり、派遣業務の委託が増えている」と話す。
鈴鹿市で1人っ子として生まれた。小5から糸東流空手道場に通い始め、中高と空手の稽古に打ち込んだ。高3の時に市大会で優勝し、恩師からK―1入りを勧められたが、将来は好きなイラストやデザインの仕事に携わろうと、名古屋市のデザイン専門学校に進んだ。
卒業を前に、父から家業を継いでくれないかと打診された。物心ついた頃から、ごみ収集車を運転する父と助手席の母の間に座って、両親の働く姿を見て育った。1人息子に託したい気持ちがひしひしと伝わり、父の意をくんで家業を守っていこうと決意した。
現在、妻と息子3人の5人家族。子どもたちが幼い頃は青年会議所の活動が忙しく、家事も育児も妻任せだったが、ここ数年は休日になると得意なカルパッチョや鶏ちゃんなど、料理の腕を振るって皆の好評を得ている。「高校の応用デザイン科に通う長男の作品が昨年の県民手帳の表紙に選ばれ、この上ない喜びだった」と目を細める。
高齢化が進む中、家財の運搬や処理に困っている方々へのサービスを各地の同業他社と提携してブランド化し、全国に拡大していきたいと考えている。「社員への感謝を忘れず、誇りを持って働ける環境作りに注力したい。亡き父の名を冠した会社を繁栄させていくことが親孝行だと思う」と語った。
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