光ファイバーとうどん 2

 前号で「光フアイバーとうどん」「時間を味方にする」と言う表題を掲げました。これは実は二つとも豆腐屋ガンちゃんの台詞(せりふ)をいただいたものです。賢明な皆様におかれましては何を意味するか察しの付かれた方もおありかと存じます。

 ガンちゃんの工場に通うこと5回、各種の手土産も次は何を用意したらよいか迷いだした3ヶ月目のこと、ガンちゃんの細君のとりなしもあって、土間が常に水ついている工場から、応接室に上げてもらうことができました。ゴルフの表彰トロフィーがたくさんおいてあるなと言うのが印象に残った部屋でした。既に2人の来客があって、競馬中継を皆で見ているところでした。

 「兄さん、ウマのことはわかるか。」

 中穴を当てたようで、上機嫌になったガンちゃんが声をかけてくれたのは、私が部屋に入れてもらってから25分ほど経ってからでした。

 「最近の馬はさっぱりわかりません。昔はよくやったのですが。」

 とつい口を滑らしてしまいました。

 「ほう、昔のウマときたかね。どんなウマを知っているのだね。」

 せっかく部屋に上げてもらうまでなったのに、「また己のへらず口がここまでの努力を水泡に帰したか。ままよ。」と性根を決めて、
「キーストンとかダイコーター、マーチス、アサカオー、タケシバオー、タニノハローモア、イチフジイサミ、とかリュウズキ。ぐらいならちょっとは。」と言いました。
場が静かになりました。

 「キーストンのあとに強い馬がいたろう。」ガンちゃんが言います。
「アサデンコウですか。惜しいことしましたね。僕好きだったんです。あの馬。」
「てへ、あきれたね。とんだ馬鹿が迷い込んだね。」ガンちゃんが笑い顔になりました。始めてみる笑い顔です。

 誰だそいつは、という友人らしい他の2人に、主人が説明しています。

 「お前のあだ名はキー坊にするからな。」という声がかかりました。
以来、今に至るまで、ガンちゃんとの付き合いは続いています。
煮え湯を飲まされる思いをされたこともありますが、それは次回お話することにしてそろそろ株の話と言う本題に入ります。

「桑名の常勝将軍は言い過ぎにしても、常勝社長といってもよいでしょうな。」というのは、ガンちゃんという勝ち組みの存在を、内緒で教えてくれた、老セールスマンの言です。

 「減るものを商うのでなければ駄目だ。(そんな会社の株を買え)」

というのがガンちゃんの名言です。
がんちゃんはいわゆるドットコムショック、IT不況の暴落にも無縁だったようです。以下、ガンちゃんの話を文章化したものです。

 「俺が豆腐を納めている工場の大食堂には、いろんなやつがいろんな食い物や材料を納めている。誰も自分の懐を他人に見せないから本当のところは今ひとつわからぬが、こいつは結構儲けてるなと俺が思うやつが一人いる。そいつは何を納めているか当ててみな。」

 「箸だぜ、はし。割り箸さ。従業員が1万人近くいて2交代で飯を食って、箸を使い、一日1万本だから月30万本の売上かと言うととんでもない。月100万本以上の売上があるんだな、これが。飯を食っていて、割り箸が折れることがあるし、寮にいるやつやアパートにいる奴は、5組や10組の箸を持ち出すのは日常茶飯事さ。箸屋には食中毒も無ければ、冷蔵庫も冷凍ケースも要らんさ。」

 「株でも一緒さ、パソコンなんざ、一度買ったら3年や5年は買わんさ。万年筆みたいなものさ。万年筆なら落としてくることもあるから新規買いがちょくちょくあるだろが、デスクトップパソコンやノートパソコンは簡単には無くさんぞ。パソコンつくっとる会社がいつまでも儲かる訳、無いぜ。」

 「光フアイバーはどうですか。日本全国に光フアイバー網を張り巡らすと小渕政権は発表していますが。」思わず私は聞きました。  「止めとけ止めとけ、キー坊。うどん屋の株でも買っとけ。」
「どうしてですか。」
「キー坊、光フアイバーとうどんのメーターあたり単価を調べて今度持って来い。俺は豆腐屋だから朝が早い。もう寝る。帰れ帰れ。」

 花札を引きながら、私に話してくれて、しこたま勝ったガンちゃんは我々をさっさと追い出しました。この行為こそ当時は気がつかなかったですが、桑名の常勝社長の異名を取り、桑名の相場師必勝法の秘密が隠されていたのでした。(以下次号)