マネー・インベストメント ~ 中高齢者は何故元気が無いか

十年以上続く不況の最大の原因は消費不振です。バブル崩壊や高金利政策により不況に突入したのは事実ですが、そんなものは三~五年もすれば立ち直るはずです。日本のGDPの七十%は内需なのですから、国内の消費が高まらなければ好景気にはなりません。消費が増えなければ、設備投資も増えないわけです。

 ここでは二人の方のご託宣を紹介します。筆者が直接インタビューして思わず膝を打つほど、永年の蒙(もう)を晴らしてくれたお話です。

養老孟司(ようろう たけし)元東京大学医学部教授のお話

 何故、今の中高齢者が元気が無いかというと、軽いうつ病にかかっているのです。それは都市の病理でもあるのです。我々は文明化と共に都会に出てきました。そこでは、一切の本能的なものは隠さなくてはならないのです。人工的なものが尊ばれ、本能に基づくものはタブー視されます。例えば昭和三十年代ごろは、駅のベンチや電車の中で、乳房を出して乳児に母乳を与えている母親の姿が見かけられました。あるいは、ふんどしひとつで、道路工事につるはしを振るっている工夫(こうふ)がいました。今は安全靴に、ヘルメットをかぶり、安全ベスト着用です。これは本能である裸を見せるなというタブーが都会にあるということです。

 私が学生のとき、東京大学医学部教授が産科の授業の第一回目にこう言いました。

『最初に諸君に言っておくが、出産は病気ではないからな』

出産は病気ではないのに何故、病院でお産をするのか。それは生・病・老・死といういわゆる四苦は人間に必ず訪れる、避けることのできない根源的本能に根ざすものだからです。家の中でやってはいけないのです。家で病死すると警察は変死として扱います。老人は家の中にいてはいけないというのが文明都市なのです。本能を隠すのです。

 都市文明はすべて予測できる、考えれば答えが出るという前提に成り立っています。ところが、自宅の三十五年ローンがリストラ・会社の倒産・吸収合併等々により、計画通り返済できなくなってうつになってくるのです。

 長期住宅ローンが返済できなくなるのは当然のことです。誰も二十五年後、三十年後の社会、会社、自分の仕事がどうなるかわからないのに(わかると言う人はうそつきなのは間違いないが)、返済し続けるという約束を交わすわけです。

 大体貸す銀行からして二十五年後の産業界がどうなるかわかっていないのです。だから自分のところからして危なくなっている始末です。
エリートと言われて『考えたら答えは出る』と教え込まれ、試験問題はすべて、答えがテキストに書いてあった世代。その方達が、考えても答えが出ないことを考えているのが現在の日本を覆っているうつなのです。  処方箋はまず行動することなのですが、それができないのです。答えを出してから行動しようとして、答えを考えているだけなのです。

前田和亘(まえだ かずのぶ)氏の話

 前田氏の紹介。
 昭和五十七年京都大学法学部卒。日本長期信用銀行に入行。大手銀行向け融資、外国営業部、国際企画部、同行ロンドン支店などを経て、UBS信託銀行に出向。同行にてプライベート・バンキング業務に従事し、後UBS信託銀行に転籍。平成十四年に独立し、アーノスグローブ代表。プライベートバンカー。

 大手といわれる会社のかなりの数の企業は早晩いきづまるでしょう。といっても、七~八年ぐらいはもちます。なんと言っても屋台骨が大きいから。タイタニック号みたいなもので、海面下の船室は浸水がひどくても、平気な部屋もたくさんある。あちこちの部門で焦げ付いていても、なんとなく給料日になると給料は出る、ボーナスもそこそこ出る。他の会社に引っ張られる、能力ある人はとっくに辞めてしまっている。残っているのは会社が潰れるのと、自分が定年になるのとどちらが早いかという段階の人です。もちろんどこからも引きは無いです。彼等が何故絶望的になっているかというと、こういうことなのです。

 「大学を優秀な成績を修めて卒業し、企業で競争に打ち勝ってくるために、家庭も交際も二の次にし、上司へのごますりに精力と休日を費やしてきた三十年近くの日々。密かに、取締役になる日のためにと買い集めてきた自社株は五分の一以下になってしまっている。いまさらどこにも戻ることはできない。貯金は数千万あるけど消費にまわす気にはなれない。」