2018年5月18日(金)

▼伊勢市が市総合計画の意見公募の結果発表とともに、多数意見に従わない考えを示したという。鈴木健一市長が会見で「市民の意見は尊重するが、多数決で決めるのではなく、総合的に考えて判断したい」。言葉通りに解釈すると、意見は何らかの形で反映させると受け取れるが、真意は「多数決で決めるわけではない」にあるということか

▼郷土愛を盛り込む審議会案に対し「既に学校で郷土教育は行っている」とする市と市教委は、意見公募では同案を排除するやの意向もあったようだが、両論併記で落着したらしい。結果は審議会案を支持する意見が56%を占めた

▼「郷土を愛し」などの文言が入ると、児童生徒はそうしなければならないと思ってしまうというのが市教委の反対意見だった。郷土を愛するかどうかは個人の思想信条に関わる問題で、市の基本計画ではいいが、「教育」に導入すると憲法が保障する思想信条の自由に反する恐れが出てくるということだろう

▼道徳教育を盛り込んだ新学習指導要領は「自国を愛し」の文言が加わった。思想信条の自由との兼ね合いが教育界で厳しく問われている。特定の価値観や生き方を学校教育で導くのはいかがなものか、という疑問である。郷土愛を巡る市、市教委と審議会の攻防は道徳教育の〝代理戦争〟のようにも映る

▼道徳教育は〝今の社会〟で〝望ましい〟とされる価値観を子どもに養おうとする教育ではある。望ましいのは「誰にとってか」の不安はつきまとう。「郷土愛」には、むろんそんな心配などあるはずがないというのが多数意見を構成している。