2023年4月10日(月)

▼黒田東彦前日銀総裁が三重県の総務部長だったころ、直面する課題で職員がお伺いを立てたら単純明快な答えが返ってきた。それまでの行政ルールも常識も無視している。「それでいいのですか」と問うたら「いいの、いいの」とあまりに軽い。県などの行政課題にはその程度でいいと見ているのかと職員は少し悔しい思いもしたそうだが、黒田前総裁のもともとの本性だったのかもしれない

▼異次元緩和とは、要は、市場にお金をだぶつかせ、購買力を高めることで2%の物価上昇を実現させるというまことにシンプルな政策なのだろう。結果的には、未達。もろもろの成果は出ていたろうが、2%の公約を実現できなかったことの説明にはなるまい。反対説や終了説が市場は多く取りざたされていたが、それこそ「断じて行えば鬼神もこれを避く」の勢いで変更どころか、マイナス金利にまで突き進んだのは意外だった

▼物腰柔らかで、話題が所管事項に及ぶとニコニコ聞いていた黒田部長がいつのまにはいなくなっているというのが当時の印象で、諸事万端に関心は強いが、君子危うきに近寄らず、が持ち味かと思っていたからだ

▼結局、6年の任期中に2%に至らなかったが、退任会見で「緩和説は適切だった」。2%とそれに見合う賃金上昇の目的を達成せず退任するのは「残念」で道半ばという感想らしい

▼名優・緒形拳は、色紙を頼まれると「尚半」と書いたという。「完成と思っていても、まだ半分」の意味。「道半ば」には、到達しないことへの言い訳のニュアンスがある。