2023年3月2日(木)

▼三重県の重点課題の遅れを巡る県議会の〝名言バトル〟で、中嶋年規議員は「霞が関の文化は必ず期限を守ること」と追求した。かつて田川亮三知事が6選出馬を自民党国会議員に阻まれそうになり「霞が関の論理だ」と反撃したことがある。省益あって国益なしなど、省内文化第一主義が「霞が関の論理」と呼ばれていたが、期限を守る「文化」があったとは寡聞にして知らない

▼霞が関出身の一見勝之知事の反論しにくい例えではあるが、名言・故事の宝庫のような知事のこと。「急いては事を仕損じる(急ぐときほど落ち着いて行動を)」「万機公論に決すべし(天下の政治は、世論のおもむく方向に従ってきめよ)」などを引き慎重に進めることに理解を求めた

▼「万機公論―」は明治新政府の基本方針「五箇条の御誓文」の一文。「世論」は「公論」の訳だが、本来「輿論」と書くのが正しいというのが佐藤卓己京都大学教授(メディア論)の説。議論と吟味を経て練り上げたのが「輿論」で、「よろん」と読み、「世論」は「せろん」と読んでたぶんに情緒的な感覚、いわゆる〝空気感〟を指した。戦後当用漢字表から「輿」が外れて世論と一緒になり、両者の使い方も混同されることになったという

▼「輿論は天下の公論」で「世論は外道の言論・悪論」。知事が「万機公論に決すべし」を引いた時、この区別を承知していたかどうか。知ってたら、別のバトルが繰り広げられたかもしれない。もっとも都合の悪いことになると審議会や委員会で議論を踊らせ、うやむやにするのは古来、行政の常とう手段ではある。