2022年7月10日(日)

▼「話せばわかる」と、昭和7年の五・一五事件で、海軍の青年将校たちに襲われた犬養毅首相は言い、将校側は「問答無用、撃て」と応じたとされる

▼テロ犯と被害者との間には、言葉に出さずとも多くこの構図が存在しているのだろう。特にテロ犯側に話し合う気も余裕もなく、思い込みに凝り固まり、自分の信じることが間違いのない真実で、〝正義〟の行動として疑わない

▼言論と暴力は常に対立の関係にある。「問答無用」は、ウクライナに侵攻したロシアのプーチン大統領の心境だろう。また英国のジョンソン首相がコロナ禍のパーティー開催や部下のセクハラ問題への対応を問われ辞任した。続投を主張したが、閣僚や政府高官が続々抗議の辞任をして刀折れ矢尽きた

▼半世紀前の英国で、問題発覚企業にかつて会長の名義貸しをしていた副首相が辞任したという特派員報告を見たことがある。辞任理由は捜査当局が自分の管轄下であること。人気のある政治家で、世論は同情的。首相らが議会で同情演説をし、盛んな拍手だったが、留任を説く者は誰もいなかったという

▼実力で引き下ろした今回の辞任を英国の民主主義の劣化というのは早計だが、日本に似てきた気がしなくもない。犬養首相は将校らを居間に導き、たばこを勧めたという。話してわかってもらおうとしたに違いない。今の政治家にそんな気があるかどうか

▼安倍晋三元首相の凶弾死に各党は参院選の活動を一時自粛したという。変事に遭遇し、活動自粛で応じるのは日本の文化である。言論への挑戦に対してはテロ側の思うつぼでもあろう。