2021年12月21日(火)

▼著者も話のてんまつも、一部を除いて覚えていないのだが、『父の仕事』というエッセーを読んだことがある。昔は、小学校の授業で「お父さんの仕事は何ですか」とよく聞かれた。父が働き、母は家事という時代背景で、日ごろ家庭にいない父親に感謝の気持ちを育ませるという教育趣旨なのだろう

▼著者の父親は税務署員だった。そう答えるたびに先生の表情が変わり、ちくりと心に突き刺さるひと言がある。近所の人たちが自分を見る目にもどこか嫌悪の感情が見てとれた。父の仕事を聞かれるのを敬遠するようになり、父への不満へと発展し「公務員」と答える知恵を身につけた

▼鈴鹿税務署長に初めての女性だという。ずいぶん遅い気がするが、24歳で長女を出産し、国税局査察部を舞台にした映画『マルサの女』(昭和62年公開)を励みに東京の税務大学校で1年間研修する綱渡りのような生活は本紙『まる見えリポート』に詳しいが、母から「仕事モード」に切り替わるスーツを着ると、長女は「かっこいいから大好き」と言うという。時代は変わった

▼いつぞや県医師会の女性の働き方改革シンポジウムをのぞき、24時間勤務の状態で子育てをした女性医師の話を聞いて書いたコラムの筆が走り、その子どもから「自分は母の愛を十分に受けた」という趣旨の抗議を受けたことがある

▼初めての就職は彼女らより前だが、課長が年下の女性で先輩、同僚らから信頼され、陰口など聞いたことはなかった。そんな体験が逆に、女性の現実をきちんと見ようとしないことにつながったのかもしれない。