2021年8月25日(水)

▼歌人俵万智さんに「方言のクッション」というエッセーがある。内容だけストレートに言うより、方言を入れてクッションとし、ギスギスした会話を和らげるというのだ

▼逆に夏目漱石著『坊っちゃん』は、江戸っ子の新任教師が初めて赴任した地方の学校で、語尾に「なもし」がつく生徒の方言に「なまぬるい」といらつく。東京五輪代表選手の金メダルをかじって批判が高まった名古屋市の河村たかし市長の場合はどうか

▼謝罪会見の詳報は「申し訳にゃあと言うしかないでしょう」「本当に情けにゃあ気持ちでいっぱいでございます」。実際にはもっと多かったのではないか。本人は、ギスギスした会話にならぬように努めたのかもしれない。が、言われた方は勢いを外されたようで不快感が募る

▼謝罪の仕方が大ざっぱだ。「私の不徳のいたすところ。ざんきの念に堪えません」「全て私が悪うございました」。具体的反省になるとあいまいだ。メダルをかんだことについて衛生問題を含め傷つけたことは認めるが、一方で自身のメダルへの思いを語る。喜ぶはずだという権力の座に慣れ親しんだ者特有の思い上がりがちらつく

▼五輪選手にセクハラまがいの軽口をたたいたのは「緊張をほぐす」つもりだったという。批判殺到で講習を受け、過去の言動も含めて、自身の非が分かったという。知らずに人を傷つけてきたというのは、むろんセクハラ問題ばかりではない。まず謝るべき方面は、身内である職員ではあるまい

▼「緊張をほぐす」「盛り上げる」などで方言を多用しているのなら、せめて謝罪は標準語で。