2021年6月9日(水)

▼児童計8人が刺殺された付属池田小事件から20年。追悼式があり、事件を風化させない決意が表明されたが、全国小中の外部侵入者対策は大きく後退しているなどの報道もあった

▼知的障害のある44歳(当時)の次女をホテルの浴槽で溺死させたとする72歳の母親に対する津地裁での裁判員裁判で、検察側は「犯行を思いとどまることができる能力は著しく低下していない」とし、弁護側は「心神耗弱状態だった」と責任能力を争う姿勢を示した

▼池田小事件の犯人は精神障害を装い、マスコミは通院歴などを強調し、国は精神障害者犯罪の重罰化を検討して精神障害者を追い詰めた。鑑定がどこまで信用できるか、考えさせられた事件だった

▼7040問題が取りざたされたのは5年ほど前か。就職氷河期でつまづいた若者が40代になっても親への依存から脱皮できず、親が70代になって生活が逼迫(ひっぱく)し社会問題となった。最近は障害児が40代になり、70代になった親が介助ができなくなるケースも加わる。76歳の元農林水産事務次官が44歳の長男を殺害した令和元年の事件は衝撃的だった

▼母親はその年、無理心中を図り警察に保護されたという。それから犯行までの1年余。行政など社会のセフティーネットが機能しなかったのはなぜか。次女の脳出血発症で将来を悲観したことがきっかけという。法廷での責任能力論議とは別の問いが、社会に突きつけられる

▼日本の悪習として世界から非難される無理心中名目の〝子殺し〟に何の歯止めもかからなかったことが気持ちを暗たんとさせる。