2019年11月21日(木)

▼リニア中央新幹線の県内停車駅問題で、川勝平太静岡県知事が会見で鈴木英敬知事に対して「うそつきは泥棒の始まり」と言い放った。恐れを知らぬというか、他人の家に土足で踏み込むようで「学者の世間知らず」という言葉が頭に浮かぶ

▼もともとは川勝知事が「饗宴の儀」での雑談で、鈴木知事が「90%亀山市に決まった」と言ったとして自身の記者会見で話したのが発端。鈴木知事の「事実無根」という抗議の言葉が仮に限りなく「事実誤認」の意味に近いとしても、静岡県当局が「お騒がせして申し訳なかった」という謝罪は当然なのではないか

▼人間の記憶の不確かさについては多くの専門家の研究がある。その専門家である心理学者が集う学会で、突然乱入し発砲した暴漢について風体を正確に供述したのはほんの一握り。ほとんどが誤って記憶し、うち数割はまったく逆の証言をしたと言われる

▼断片を聞いただけで事情に疎い自分が〝専門家〟である相手の発言を誤解なく理解したと確信し、事もあろうに〝専門家〟の方を〝うそつき〟呼ばわりする自信はどこからくるのか。あまつさえ、自治体同士の不毛の争いを未然に防ごうと知恵を絞った事務当局の〝謝罪〟をひっくり返してしまった

▼明治の物理学者長岡半太郎は研究に没頭し、日露戦争が勃発、終結したことを知らなかったといわれる。数学者岡潔は、考えごとをしながら出勤し、片方の足は革靴、もう片方はサンダル履きだった。政治家になったらトランプ米大統領と別の意味で「泣く子と地頭に勝てぬ」と、マユをひそめられたに違いない。