2019年9月24日(火)

▼京都アニメーション放火事件の犠牲者実名報道で、マスコミ倫理懇談会が「事実を正確に伝え、事件の真相に迫るためには実名報道が不可欠であるということを、メディアがより丁寧に伝える必要がある」という申し合わせを採択した。基調講演した曽我部真裕京大教授が別の共同通信のインタビューに「メディアは実名を報じる意味を具体的に明示しなければ、社会の理解は得られない」

▼最も身近な有識者にさえ伝わってはいない。「より丁寧に」は、森友問題の説明に際しての安倍晋三首相はじめ歴代首相がよく口にする言葉だが、結果は言葉遣いに終始し、内容に及んでいなかった。追及する側もされる側も、似たもの同士ということかもしれない

▼実名か匿名かの議論は古いが、最近では相模原障害者施設殺傷事件との違いがあろう。神奈川県の知的障害者福祉施設「津久井やまゆり園」で刺殺された19人は遺族の実名拒否の意向で、メディアは全員、氏名を報じなかった。京アニは警察が氏名発表した第2段階の25人のうち、21人の遺族は実名を強く拒否したが、全員実名で報じられた

▼「丁寧」というより、メディアらしく誰もが得心いく説明をしなければ不信は募る一方だろう。知的障害者を遺族の意向通り匿名にしたことは、場合によっては障害者差別と言われても仕方ない。今回京都府警は、百人態勢の被害者支援班でメディアとの調整や遺族の意向確認を取り仕切ったという

▼それを上回る態勢を講じなれば、警察の隠ぺいを許さぬためにも発表は実名でと訴えても社会の共感は得られまい。