2019年8月28日(水)

▼相談員のなり手不足に悩む特定NPO法人「三重いのちの電話協会」の古庄憲之事務局長が「相談員のやりがいを知ってもらうための取り組みも検討しながら、積極的に募集を続けていきたい」

▼なり手不足は慢性化していたが、いよいよ苦渋の決断をせざるを得なくなったということか。原因について、定年退職者の再雇用が増えていることとボランティアの多様化を上げている。経済面と善意の志向の変化で追い詰められたということでもあろう

▼「いのちの電話」は昭和28年、英国で13歳の少女の自殺に衝撃を受けた牧師によって始められた。ロンドン・タイムズに載せた相談を呼びかける一行の広告から全世界に広がったとされる。平成13年に世界50番目に開局した県でも、キリスト教の精神が厳格に守られてきた

▼特に強調されているのは相談者のプライバシーの保護だが、相談員も、人の役に立ちたいというやむにやまれぬ思いから参集した人々で成り立っていた。高齢化社会の到来とともに定年退職者が悠々自適の生活を送る環境ではなくなった。NPOの発達は、無償のボランティアをむしろ否定、対立することも少なくない。頻発する最近の大災害は善意の人の関心を福祉ボランティアから災害ボランティアに向けつつある

▼古庄事務局長は県の報道官経験者。相談員のやりがいのアピールの必要について十分承知していたに違いないが、あえて取り組んでこなかったことに伝統の意義と環境の変化との板挟みを感じる。善意やボランティア活動も競争に勝ち抜かねばならぬ時代に入って久しい。