2019年3月22日(金)

▼選挙といえば、土下座を思い出す。昔は候補者だけでなく、その家族もよく土下座をした。演壇に上ってあぐらをかき、さあ、これでオレとお前らは五分と五分だとか何とか言って土下座し、喝采を浴びたという話が新聞に載っていた

▼取材で体験した土下座はどこかもの悲しい。敗色濃厚な現職の留守を守る妻が最後の集会で小柄な体を小さく丸めて土下座したのには息をのんだ。県議が妻子と土下座したのには、政策通を看板にしていただけに現実を見せつけられた思いがした

▼土下座は高貴な人と出会った時に地面にひれ伏す礼法で、『魏志倭人伝』の昔からあるが、日常生活ではしないため、特別な行為として謝罪などに用いれば大概許される半面、恥辱ともされたという。お願いでの活用は大正後期以降というから選挙と縁がなくもないか

▼四日市市のショッピングセンターで、通路に置かれたカートが気に入らぬと50代男性が20代の女性店員に「土下座しろ」と謝罪を強要し、逮捕された。自身を高貴な人とみなさなければできぬ要求だから「お客様は神様」だと思ってのことか

▼労働組合「UAゼンセン」の調査では、7割強、3600人が客から迷惑行為を受け、1・8%1580人が土下座を強要されていた。「お客様は神様です」は前回の東京五輪のテーマソング「東京五輪音頭」を歌った歌手三波春夫が言って、消費時代を背景に広がっり、消費者の心をくすぐった。選挙で土下座は今どうか。いい気分にさせられていることに気づき、賢い有権者、賢い消費者者として目覚めねばなるまい。