2018年9月18日(火)

▼歌手の安室奈美恵さんについてこの欄で書いたのは車の免許取得での混乱が話題になった時だけ。アーティストとしての実力にもそのブームにも一向不案内で、引退に際しても、沖縄知事選に影響する発言があるかに関心があっただけだから、ファンには申し訳なかった

▼翁長雄志前県知事の死去に遺志が受け継がれるように願う追悼コメントを発表したことで知事選両陣営を過敏にさせたが、影響は社会の隅々に及んでいた。中学校の剣道全国大会で「あの名前、何て読むんだろうね。変なの」と奇異の目にさらされていたのが、安室さんの出現で「小馬鹿にしていた多くの日本人の態度を改めさせた」と、親川志奈子オキスタ107共同代表が雑誌『世界』に書いている

▼「沖縄人だからと卑屈になるな」という子どもたちへの励ましも少なくなり、目に見える形で「何か」が変わった。観光収入が基地収入の3倍近くに、というのは前泊博盛沖縄国際大大学院教授の分析。が、変わったのは「悪い偏見」から「少しよい偏見」へ。「洗練された差別」に進化しただけではないかというのが辺野古基地を巡る国と県との対立で、親川さんが感じる本土の目だ

▼韓流ブームなどで盛り上がった親韓が歴史認識批判などで「嫌韓」に変わったことを連想させる。アイドルからアーティストへと脱皮していった安室さんに続き、沖縄も殻を破る時という親川さんの提唱には不幸な成り行きを感じるが、アベノミクス自賛と「正直、公正」のスローガンに踏み込まない退屈な自民党総裁選よりは真剣勝負の沖縄知事選に興味は向く。