2018年7月8日(日)

▼「阪神大震災が発生した年ですよね。鮮明に覚えています」と知人が言った

▼事件は、その時自分が何をしていたかの記憶と結びつく。サリンが散布された営団地下鉄(現メトロ)の一つ、日比谷線で乗客多数が脱出を図った築地駅は本紙東京支社の最寄り駅。避難する人で周辺の本願寺なども大混乱だったと、23年後の今も地域で語り継がれる

▼平成7年3月20日はしかし、北川正恭前衆議院が出馬し、前副知事と一騎打ちになった知事選挙告示の約2週間前。遠い東京の大事件の記憶が実はあいまいなのは凡夫のなせる技だが、一流大学の学生らが入信していたことには思い当たることがある。学生のころ住み込んでいた新聞販売店で、後輩の学生らが次々新興宗教に入信していくのを不思議な思いで見ていた

▼彼らは、4年間の配達業務などとの見返りに入学金や授業料を新聞社が給付する奨学生。同制度をブラック企業とする体験記が最近出版された。都会に憧れ、たまたま新聞販売店に住み込み「学生貴族」を自認していた自分とは、同じ釜のメシを食べながら心の有り様は違ったのかも知れない

▼事件は日本中がバブルに狂奔した時代と重なる。北川知事は時代背景について「地域社会が崩壊して、会社社会になったのでしょ」。地域から離され、心に不安を抱えた人が少なくないことを物語る

▼テロとは異なる不可解な無差別殺傷事件が最近頻発する。オウム真理教事件を「異常な集団の凶悪犯罪」として、早期に社会から葬り去ろうとする日本社会の特質が不安の解明、解消を困難にしている気もする。