2018年6月9日(土)

▼朝日町事件の被害少女の父親からの訴えを受け、鈴木英敬知事が被害者支援条例に前向きな姿勢を示した。SNSなら「いいね」を押したいところだが、分からないのはその理由について「施策の中で実質上やっているものの、明示的なものはない状態」と語ったこと。何か「実質上やっている」ことがあっただろうか

▼犯罪被害者に寄り添う組織として、県警所管の「みえ犯罪被害者総合支援センター」はある。日本が遅れていた犯罪被害者の権利を守る「犯罪被害者基本法」が平成16年に制定され、警察主導で全国に設立されていった。補償制度も拡充されたが、生計を担っていない被害者の遺族補償は最低レベルにある

▼裁判所は加害者少年に7千万円の賠償を命じたが、支払いに責任をもってくれるわけでもない。遺族は加害者少年の両親に3千万円の民事訴訟を提起し和解したが、和解金は請求額からはほど遠い金額のようだ。個人が訴訟を継続するための精神的、経済的負担は想像を絶する

▼朝日町事件の被害者遺族に限った話ではない。加害者が個人の場合、ほとんどの遺族が味わい、やり場のない怒り、悲しみに苦しめられる。納得できる真実を知りたいと、遺族にとってやむにやまれぬ民事訴訟だが、民民の争いに犯罪被害者支援センターはどこまで寄り添えるだろうか

▼先進県の条例はいわゆる「明示的なもの」だけではない。訴訟費用の支給など、実質的支援が含まれている。全国的にも衝撃的事件から5年。県は父親から被害者救済が「非常に遅れている」と指摘されたことをよく考えねばなるまい。