2018年6月4日(月)

▼神宮のお膝元だから、伊勢市で観光案内所にムスリムの礼拝場所を設ける計画が「政教分離違反の疑い」などの苦情殺到で中止に追い込まれても驚かない。逆に神社が宗教差別を受けているという声が市の審議会で上がったと聞いて、こちらはいささか驚いた

▼教育の章に郷土愛や神宮を盛り込むよう主張し、市教委と対立している市総合計画の審議会である。公立小学校の修学旅行で、春日大社の駐車場にバスをとめながら東大寺だけ見学するのが宗教差別ということらしい。郷土愛や神宮はあくまで伝統文化の保存継承の視点からの訴えのはずだが、つい〝宗教〟に踏み込んだということか

▼東大寺見学は伝統文化の理解が目的だろうが、仏教はよくて神道はだめかなどの議論にしてしまうと〝宗教〟の話になる。鈴木健一市長も慎重にならざるを得まいと思ったらあっさり「神社に行ってはいけないという思い込みがあるのだろうか」と神社見学に理解を示した。伊勢市の市長だけのことはある

▼なにしろムスリム礼拝所への反発を「予想外」と語った市産業観光部理事は昨年、神社仏閣を観光資源とするイベントで神話の物語性を売り込む「伊勢モデル」を紹介し、神社本庁担当者とともに出席したパネルディスカッションで、市と神宮がいかに政教分離を恐れず「政教連携」しているかで同調していた。審議会の考え方とも一致する

▼憲法二十条は「国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない」と定めている。厳格に守ろうしている市教委が実はひとり、浮いた存在なのかもしれない。