伊勢新聞

地域支える「便利屋さん」 ボランティア団体・尾鷲藪漕隊、山道整備など 三重

【景勝地「牛の背」を整備する隊員ら=紀北町相賀で】

【尾鷲】総面積の92%が山林で覆われた三重県尾鷲市で、週1回の山道整備などに取り組むボランティア団体がある。地域の困りごとを解決に導く、人呼んで「尾鷲の便利屋さん」だ。登山好き4人が始めて12年、地域の足元を支え続けている。

正式な名前は「尾鷲藪漕(やぶこぎ)隊」。旧尾鷲町を囲む全長約40キロの山道「尾鷲トレイル」整備を目的に結成された。平成25年、隊長の内山佳和さん(73)らがルートの開拓を開始。1年半かけて整備し、現在は隊員約10人で保全に努めている。

作業は毎週木曜。1日は東紀州地域の3市町から12人が参加した。整備したのは、便石山(標高約600メートル)頂上付近の景勝地「牛の背」で、トレイルの脇道に入り約200メートル。作業道「ボケシイコース」を通り、約1時間で現場に到着した。

隊員らは持参したチェーンソーやのこぎりなどを使い、一帯の景観を損ねていた低木を伐採したり、雑草を刈り取ったりして整備。平均年齢は70歳というが、持ち場や役割は決めずとも1人の動きに呼応し、全員で手際よく作業を進めた。

【(上)草木が生い茂って景観を損ねていた景勝地「牛の背」(下)整備後に市街地全体を見下ろせる眺望になった】

累積標高差約4,000メートルの険しいコースは、復旧の必要箇所を即座に把握するのが難しい。そこで週2回トレイルを走る市民トレイルランナー吉澤将典さん(48)と連携。環境変化などを随時報告してもらい、観光客らの安全確保に役立てている。

藪漕隊への依頼内容は山道整備のほか、剪定(せんてい)作業やイベントの補助などさまざま。尾鷲観光物産協会が整備する「天狗倉山駐車場」の整地にも駆け付け、梅谷陽子事務局長は「相談すればすぐに対応してくれる。毎回助かっている」と喜んだ。

地域住民の依頼に応じて年々活動範囲を広げる一方、平日限定の活動がネックで若年層の加入はない。高齢化が顕著になる中で、内山さんは「藪漕隊としては現状が精いっぱい。自分が現役のうちに後継団体が出てきてくれたら」と漏らす。

コロナ禍で利用数が落ち込んだ時期も欠かさず整備した藪漕隊。隊員らは「きれいな尾鷲をつくりたい」一心で活動に励む。利用者からの感謝の言葉が原動力。内山さんは「便利屋は最大の褒め言葉。尾鷲の未来を守っていきたい」と話す。