三重県の津地裁で民事部総括判事を4年間務めた竹内浩史氏(62)が定年を前に3月末で退官した。国家公務員の地域手当を巡って現職裁判官でありながら国を訴えるなど、異色の裁判官として注目を集めた竹内氏に思いを聞いた。
―定年まであと約2年半あるが、どうして裁判官を辞める決断をしたのか。
裁判官の転勤は普通3年だが、4年目をやれと言われて辞めることを考え始めた。その後、大学で教えないかと誘われ、後進を育てることも大事だと思って引き受けた。
―一番、思い出に残っている裁判は。
(平成16年のプロ野球再編問題で)プロ野球選手会が労働組合であることを認めた決定。選手会が自信を持ってストライキをやり、12球団の維持につながった。(裁判官を務めた)22年で一番良い仕事をしたと思っている。
―三重県の印象は。
三重県民は簡単に権力に屈しない。地場の企業が県や市と争う裁判が多かった。
―津地裁での4年間の思い出は。
生活保護に関して決定を2件、判決を4件した。高裁でひっくり返ったのもあるが、全て原告を勝たせた。生活保護法には食費や文化費などを積算してどのくらいの額になるか書いていない。納得する水準を国会で決めるべきだと思う。
―地域手当の差によって裁判官の報酬が減額されることは違法などとして、昨年7月に名古屋地裁に提訴した。現職裁判官でありながら国を訴える判断をした思いは。
憲法で裁判官の報酬を減額できないと規定しているのに、地方に赴任すると給料が下げられるのはおかしい。昨年の地域手当改正について、最高裁が現場の裁判官から意見を聞かなかったのも問題だ。(10年以内にある)次回の見直しの際に、力となるような判決を勝ち取りたい。
―今後の活動は。
立命館大の教員として少なくとも週2回は講義やゼミをする。残りの時間は名古屋で弁護士として働く。裁判官人事は問題があるので研究、監視したい。
―県民にメッセージ。
(昨年の人事院勧告で)三重県の地域手当は四日市市と鈴鹿市を除いて4%に引き下げられた。国家公務員だけでなく地方公務員や民間にも波及する。私と一緒に怒ってほしい。
裁判で国側は「地域手当は報酬には当たらない」などと主張。次回の公判は名古屋地裁で6月2日に予定されている。
略歴 竹内 浩史(たけうち・ひろし)愛知県出身、東大法学部卒。司法修習39期。弁護士として活動後、平成15年に裁判官に任官。令和三年4月から津地裁民事部総括判事を務め、今年3月に退官。昨年、著書「『裁判官の良心』とはなにか」(LABO)を出版した。