-引き継いだ店一新 来客増、店舗展開を視野に-  株式会社「ひしゃかく」社長 海鮮居酒屋「飛車角」オーナーシェフ  川口真依さん

【「店舗展開を視野に新たな挑戦をしたい」と話す川口さん=亀山市野村で】

 亀山市野村の海鮮居酒屋「飛車角」は平成5年、父真さん(62)が創業した。昨年3月、経営難だった店を父から引き継いで全面改装し、厨房と接客スタッフを増やしながら、現在は10人で業績を伸ばしている。

 「来てくれたお客様への感謝をお料理に込めて」が店のモットー。地元尾鷲をはじめ全国各地の卸売市場から旬の魚介類を取り寄せ、各地の人気地酒、各国のワインとともに提供している。蔵をイメージした和モダンな外観、店内は掘りごたつの座敷とテーブル、カウンター席合わせて40席あり、貸し切り宴会もできる。

 メニューはお造り盛り合わせ、煮付けなどの定番から、飛車角オリジナルの海老まみれ天巻き、松阪牛ステーキ、お好み焼き、手作りのデザートまで50種余。「すごくおいしかった」「また来るね」などと通う常連客に加え、女子会のグループや家族連れ客も増えている。

 亀山市で2人姉妹の長女として生まれ育った。小3の時、両親が離婚して母と妹との3人暮らしになった。看護師として働き、女手ひとつで家計を支えてくれる母の負担を減らそうと、料理や洗濯を妹と分担して母の帰宅を待っていた。

 祖母の援助を受けて津市にある中高一貫校のセントヨゼフ女子学園に進学した。中1から6年間、バドミントンに打ち込み、高3の時はキャプテンとして県大会出場を果たした。「周囲は恵まれた家庭環境の人ばかりで自分に自信が持てなかったが、部活に関しては『やり切った』と自分を褒めてやりたかった」と振り返る。

 卒業後は母の勧めもあり、四日市看護医療大学に特待生として進んだ。勉学の傍ら、夜はマクドナルドで働き始めたが、より時給の高い職場を求めて名古屋市のキャバクラでアルバイトをするようになった。接客の難しさはあったが、努力した分だけ報酬が増える仕事にのめり込み、看護師の仕事が自分には向いていないと実感してわずか2カ月で看護大を中退した。

 アルバイトを本業として務める内、長く続けられる仕事ではないことを実感し、将来は自分の店を持つことが目標になった。勤めの傍ら、昼間は調理専門学校に通い調理師免許を取得してキャバクラを辞め、津市の洋食レストランと名古屋市の和食割烹でそれぞれ2年ずつ修行して腕を磨いた。

 その頃、父の店が経営不振に陥っていることを知り、休日に通いながら立て直し策を考えた。事業計画書を作成して資金を借り入れ、古くなった店舗を全面改装した。メニューを一新してのリニューアルオープン後は、ネット配信や口コミで来店者が増え、常連客も飛躍的に伸びた。

 周囲から「活気あふれる店になった」「亀山で一番の居酒屋だね」などの声が届き、「皆さんの期待を越えられるよう一層励みたい」と話す。キャバクラ勤めに大反対だった母も今は「頑張ってるね」と、時々訪れては、テーブルに花を生け、従業員に差し入れをしてくれる。

 コロナの影響で休業が続いたが、充電期間だとスタッフと親睦を深めながら前向きに過ごした。「お客様とスタッフが大切な宝物、教えられることばかりです。飲食業界が大変なこの時期、あえてピンチをチャンスと捉え店舗展開を視野に入れ、新たな挑戦でもっともっと人生を充実させたい」と意欲を見せた。

略歴: 平成2年生まれ。同21年四日市看護医療大学中退。同25年調理師免許取得。令和元年「ひしゃかく」社長に就任。同2年亀山ライオンズクラブ入会。