ハマグリ食文化伝えたい 海外出展の夢語る4代目 マルタカ水産社長 古川智一さん

「今は忙しいのが楽しい」と話す古川社長=四日市市住吉町のマルタカ水産で

 四日市市住吉町のマルタカ水産は、国産や輸入ハマグリを中心とした魚介類の卸問屋。年間約500トンを全国の市場に出荷する。インターネット直販やハマグリ専門飲食店の運営も手掛けている。

 曽祖父の代から始めたハマグリの卸売業。四代目。年末年始の出荷に向け、毎年12月20日ごろから仕事の忙しさはピークを迎える。計ったハマグリをネットに詰めたり、梱包(こんぽう)したりと、中学生の頃から手伝っていた。「学生時代は冬が嫌いだった。クリスマスはいつも手伝いで、誰かと過ごした記憶がないい」と笑う。

 4人きょうだいの中で唯一の男子で両親の期待も大きく、「男だから。長男だから」と頼りにされていた部分が、重荷になった。みんなのよう自分も遊びたい―。「切羽詰まって、一時は真剣に自殺も考えた」と苦笑する。

 「家を出たい」との思いから、東京の大学に進学。進学後も繁盛期は手伝いに帰ってきたが、就職は東京でするつもりだった。

 転機は、就職のことを母親に告げた時、涙を流してさみしそうな顔をする母の姿を見た瞬間、今までの思いが全て吹っ切れた。「なぜだかあの時、『自分が必要とされている』ということを強く実感した」と振り返る。「今思えば、本当の意味で自分の存在を認めてほしかったのだと思う」

 「やるからには繁盛させたい」と決意したが、景気悪化や産地表示の義務付けで、業績が悪化してきた時期と重なり、入社後はスーパーなどへの営業に明け暮れた。「おいしいのに、理解してもらえないのが悔しくて。何かいい方法はないかと、模索していた」

 伸び悩む中、インターネットでの販売を始めたり、自社畜養施設でのハマグリの管理方法の改良に取り組んだ。ネット購入者から届く「おいしい」という声は「間違っていない」という自信とやる気につながった。

 「いろんな人に食べてもらいたい」と、ハマグリ専門の飲食店「はまぐり屋」を6年前、名古屋市に開店した。現在は名古屋市に2店舗、東京都に2店舗の直営店をもつ。

 「仕事を始めて、ずいぶん性格や考え方が変わった。人のせいにせず、不平不満は言わないことを心掛け、人は自分の鏡と思い、自分を省みるようになった」と話す。

 「今は忙しいのが楽しい。仕事が趣味」と笑いながら、「何らかの形で海外に出店したい。ハマグリの食文化をもっと多くの人に伝えていければ」と夢を語る。

略歴:昭和53年生まれ。四日市市出身。平成13年マルタカ水産入社、同24年社長就任。