―子どもと地球環境にやさしい家づくり― 「杢承(もくしょう)」社長 下濱佳奈さん

【「住み継ぎたいと思える家造りを追求したい」と話す下濱さん=四日市市楠町で】

三重県四日市市楠町の「杢承」は、自然素材にこだわった木の家造りを専門とする大工職人だった父光行さん(71)が平成14年に創業した「宮本建築」が前身。同31年に経営を引き継ぎ、伝統の匠(たくみ)の技を後世に引き継いでいく意味を込めた「杢承」と社名を改めた。現在は住宅・店舗の新築、改修と古民家のリノベーションを手がけている。

構造材の全ては県内の林業家がこだわり抜いたスギやヒノキを使い、高気密・高断熱の国産木質繊維(ウッドファイバー)を充てん、自然素材の塗り壁で仕上げた健康で長く暮らせる家造りをしている。

小児ぜんそくの子どもがいる30代の夫婦から、戸建て住宅の注文を受けた。断熱性に優れた自然素材を使うことで、ぜんそくの大敵である寒暖差を緩和し、化学物質を含まない素材で、健康を第一に考えた木の家を造り上げた。「子どもの症状が治まり、木の温もりと塗り壁の落ち着いた雰囲気が最高」と話し、家族皆で何度も足を運んで家造りの工程を間近に見られたこともいい思い出と満足してくれた。互いの子どもたちも施工中に仲良くなり、引き渡し後も家族ぐるみの付き合いが続いている。

息子家族との同居が決まった60代後半の夫婦から、築後80年余の古民家を改修してほしいと依頼があった。まず耐震補強を施し、伝統工法で建てられた太いはりや柱の骨組みを残して2階を吹き抜けの開放的な空間にして、物置を子ども部屋に改造した。「生まれ変わった我が家に孫たちも大喜び、3世代で快適に暮らしている」と喜ばれた。「難しい改修依頼だったが、伝統の匠の技を持つ職人らがいるからこそやり遂げられた」と話す。

楠町で2人姉妹の長女として生まれた。幼少時は忙しい両親に代わって、祖母が面倒を見てくれた。絵を描くのが得意で、小・中の校内絵画コンクールで賞を取るたび、大喜びしてくれる祖母が大好きだった。休日は父に連れられてよく建築現場に行った。働く父の姿がかっこよく、同じ仕事をしたいと思うようになった。

四日市工業高校を卒業後、名古屋市の東海工業専門学校建築科を修了し、父の紹介で鈴鹿市の設計事務所に入社した。注文住宅の設計に携わる傍ら、建築士の資格取得のための勉学にも励み、翌年、2級建築士の資格を得た。5年後、家業に入社して経理事務を担当しながら、他工務店の設計部門を引き受けるようになった。

40歳を前に、父の意向で経営を引き継ぐための勉強を始めた。楠町商工会の職員に事業経営についてさまざまなアドバイスを受けたり、経営セミナーに通ったりした。事業承継についての専門的なことは経営コンサルタントや税理士から学び、平成31年に2代目社長となった。

10年前に新築した自宅兼営業所・モデルハウスは、「日本人の心が悦ぶ家づくり」をテーマに、自ら設計・施工をした。一文字瓦や通り庇、糸屋格子などの伝統的な京町屋を忠実に再現した外観、内部も通り土間が奥まで続き、土壁を背景に吹き抜け部の折り重なった¥ルビ(梁,はり)、実用的な作り付け家具まで、先人の知恵を随所に取り入れた建築様式になっている。

1階のリビングルーム一角にワークスペースを設け、長女優花さん(14)と長男悠斗さん(12)が勉強やゲームをする様子を、仕事をしながら見守っている。「2人には、友だちをたくさん作り、たくさん遊び、たくさんの経験をして、やりたいことを見つけてほしい」と話す。

また、併設した古民家カフェ「木乃子」では、洋食やカレー専門店が日替わりで出店しており、SNS(交流サイト)や口コミで来店客が増えている。食後にモデルハウスを見学する人も多く、施工依頼につながっている。

「住み継ぎたいと思える家造りを追求し、お客様に自信を持ってお勧めして、長く親しいお付き合いになる杢承ファミリーの輪を大きく広げていきたい」と意欲を語った。

略歴: 昭和55年生まれ。平成12年東海工業専門学校建築家修了。同年「設計事務所」入社。同13年2級建築士資格取得。同17年「宮本建築」入社。同31年「杢承」と社名変更、社長就任。

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