液晶ディスプレイと有機EL

 前号に引き続き有機ELの件をとりあげます。
今年四月七日から九日まで、東京ビッグサイトで開催された『EDF電子ディスプレイ・フォーラム2004』に取材に行ってきました。主催者は社団法人電子情報技術産業協会( JETA )です。同時に『 EDEX2004電子ディスプレイ展 』とSEMI( Semiconductor Equipment and Materials International )の主催になる『 SEMI FPD Expo JAPAN 2004 』も開催されて いましたので取材しました。一粒で三度おいしい取材となりました。相当疲れましたが。

 電子ディスプレイ展の模様は テレビニュースでも放映されましたから、ご覧になられた読者の方もおありでしょう。
テレビでは液晶ディスプレイやプラズ・マディスプレイの大画面モデルを放映し、大画面テレビの商戦を解説して時間をかけていました。

 参加者の関心は有機ELディスプレイの展示に傾き、大きな人だかりができていました。参加者は比較的高年齢者が多かったのが印象的でした。研究員や大学教授クラスの関係者が多数訪れている感がしました。
結論から申し上げますと、大型画面生産競争は大変な危険をはらんでいる予感を、関係者は薄ら薄ら気づいているようですと申し上げざるを得ません。

 皆様ご承知のように、液晶薄型ディスプレイは

1、場所をとらない薄型
2、軽量
3、低電力で使用可能
4、目に優しい
5、紙の替わりに

 といういわゆる液晶の5条件で、関係技術者のご努力もあいまって急速に普及してきました。それでも世界のディスプレイ生産台数は、二〇〇五年に液晶がCRTを追い越す段階なのです。
日韓中台の各国パネルメーカーは大型パネルの製造競争に走っているようです。しかしながら
液晶産業の業界構造として次のことがあげられます。

1、参入障壁が低い
2、パネルサイズの大型化が早く設備の陳腐化が激しい
3、製造装置メーカーを通じて生産技術が流出
4、資本集約的な産業で過当競争に陥る
5、韓国、台湾が国家事業として参入

 再びニュース番組に話を戻しますと、大画面テレビは液晶テレビかプラズマ・ディスプレイテレビのどちらを選べばよいかという方向で番組の構成がなされていました。メーカーの思惑通り、狭いマンションの居住者が32インチ、40インチの大画面テレビを買い続けるのでしょうか。

大型基板に未来はあるか

 画面サイズの拡大がガラスサイズの拡大を加速します。大型パネルを低コストで大量に作るために。
しかし基板大型化に伴い、装置コスト、投資額、環境対策のコストは増加します。これ等のコストが基板面積の増加割合を下回っていれば、投資性賛成を上げ、パネルコストを下げていくというこれまでのシナリオが適用できるわけでありますが。次世代大型パネルの設備投資は二千億円とまで言われています。果たして回収可能なのでしょうか。「戦艦大和か万里の長城か大型液晶パネル工場か」になることを危惧します。

 この事態は、大西洋横断大型客船の大型化の歴史と、相通じるものがあるという指摘が関係者から指摘されています。つまり、顧客数の頭打ちと共に大型化に伴う建造コストの増加が、一人ひとりの乗客を運ぶための輸送コストを押し上げていった結果、大型化の限界に達したという市場原理が貫徹された歴史です。当時、豪華客船で米国・欧州を旅行できる人は限られていました。

 しかも、航空機という新産業が、劇的に力を持ってきたのです。
液晶ディスプレイにとっての新産業は、有機EL、電子ペーパーです。FED(フィールド・エミッション・ディスプレイ)も虎視眈々と市場をうかがっています。二〇〇五年から二〇〇六年までは液晶産業も良いかもしれません。しかしその後は、と思うときローテク産業に目を向けるのも良いと思います。