「スーパーコンピュータを20万円で創る」集英社新書 その2

(先週より続く)

杉本教授が伊藤智義君に白羽の矢を立てた理由を、以下のように述べています。

「彼は『ヤングジャンプ』誌に連載されている『栄光なき天才たち』という
劇画のストーリーを書いている人である。このように他人のやらないことを、
しかも、雑誌の締め切りにいつも間に合わせて仕事をしているのは相当な人物だとふんで」勧めた。
―「手作りスーパーコンピュータへの挑戦」杉本大一郎著 講談社ブルーバックス1993年2月絶版

(この本は三重県では、鈴鹿市立図書館にのみ在るので、伊藤氏の本の裏づけのためにも
借りてきました。何故なら伊藤氏のような才能の持ち主はさぞかし毀誉褒貶が激しく、
また自己PR術に長けていることは想像に難くありませんから。)

高杉晋作が功山寺で挙兵したとき、奇兵隊である力士隊50人〈ならず者集団〉を引き連れて
山県有朋が参加したから、明治の回天の事は成ったように、杉本の元に落ちこぼれ
(都立高校の採用試験にも受からなかったおっさん)の伊藤が来たから杉本の業績は輝いた。
伊藤は計算機科学の専門家となった。

天文学に理論物理学を応用する、融合するためにスーパーコンピュータが必要なのは
次の事情によります。

「万有引力の法則」の発見は「重力」の発見でもあった。このときから天文学は、観測だけの時代から、
理論による研究が進められる時代へと展開している。

「万有引力の法則」はシンプルな式で表現されている。それにもかかわらず、物体が3つ以上あると、
それぞれの運動は計算では解けないことが証明されている。

お互いの星が影響しあうからだ。スーパーコンピュータを使うと10万ほどの数の星の影響を
近似的に計算を繰り返すことによって、計算できるとの理論が認められた。
スーパーコンピュータは当時月1億円以上のリース料であった。日本の大学にはそんな予算はない。

 それに対し、重力計算専用のコンピュータ、専用コンピュータを誰か製作しないかと、
レターを全国に出した研究者がいた。野辺山宇宙電波観測所の近田義広氏である。
スーパーコンピュータは汎用だから(いかなる用途にも使える設計)複雑高性能で高価である。

 「物事を簡単と思う人には二通りある。一つは、当然ながら、そのことについてよくわかっている人、
もう一つは、逆にそのことについてほとんどなにも知らない人である」

「このことは大道将棋に似ている。大道将棋とは金品のやり取りを伴う詰め将棋である。
料金を払って挑戦し、詰ますことができれば賞金や賞品を手にすることができる。」

「一見すると簡単に詰みそうなのだが、意外な手筋が用意されていて、実際にはなかなか詰まない。
したがって、チャレンジするのは多数の初心者と、ごくわずかの上級者。
ある程度将棋を知っている中級者は、対局者を取り巻くばかりで実際には手を出さない。」

 「但し、無知は時として、物事を動かす原動力となる。伊藤も指導教官から与えられたテーマを
簡単そうに思い込んだ。」

 大道将棋と研究の大きな違いは、大道将棋は手を出さなければお金を取られることはないが、
研究は手を出さなければなにも得られないということである。

 したがって、一部の成功した研究室からは次から次へと、成果が生まれ、周りはその成果を
後追いするばかりという現象が生まれる。(このあたり、社会の資本主義ゲームあるいは
投資と酷似していますね