<まる見えリポート>米蔵をカフェに再生 松阪建築家クラブ、まちなみ保存の一歩に

【米蔵を改修してオープンしたパンカフェ=松阪市本町で】

松阪建築家クラブ(谷川精一会長)は三重県松阪市本町の旧参宮街道沿いに建つ使われていない蔵をカフェに再生した。歴史的建造物の活用を通じたまちなみ保存と観光地化へ第一歩を踏み出した。改修費用と所有者・利活用者間の仲介組織が課題となる。

同クラブは昭和63年に発足し、建築士事務所を主宰する6人でつくる。平成28年から地域貢献事業に取り組み、松阪商人の豪商旧宅が残る市中心部を歩くフィールドワークを開始。景観や観光、防犯を考える中、空き家になって多く残る歴史的価値ある古民家の保存活用に焦点を合わせた。

古民家を飲食店などに変え観光資源として生かしている岡山県倉敷市を同30年に視察。同市のまちづくりを先導してきた建築家の楢村徹氏を迎えた講演会で「事例をつくるのが一番説得力がある」と助言され、歴史的建物の再生に着手した。

【参宮街道に面した改修前の蔵(「みんなで創ろう私たちのまち」から)】

まち歩きで知り合った平成5年廃業の米穀商から土蔵の活用を任され、昨年1月にテナントを募集。パン屋兼カフェの店主から応募があり、改修物件を広くPRできると判断し、契約。改装工事を始め、「Pieceピース cafe&store」が昨年開業した。

蔵は近くに三井家発祥地や旧小津清左衛門家が並ぶ通りにある。明治45年の建築で、木造平屋建て約90平方メートル。傷んだしっくいを塗り直し、調理室や床を整備、商品棚や本棚を取り付けた。

谷川会長(73)は「改修したくてもお金がなく、そのままにしておくと、屋根が崩れて雨漏りして、壊さなくてはいけなくなる。そういう例がいっぱいある」と指摘しつつ、「1年に2つ、3つ再生して、30年、50年たつと地域として生きてくる」と展望する。

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同クラブは再生事例をモデルにしようと冊子「みんなで創ろう私たちのまち まち歩きから古民家再生へ」を作成した。改修経緯や工事前後の写真の他、蔵の所有者とカフェ店主、クラブメンバーの座談会を掲載している。

座談で所有者は「建物はよくなった。米蔵のままでは使い道がありませんでした。中も広くて天井も広い」と喜ぶ。

メンバーらは「今後に向けた景観に配慮した修繕のモデルにしたかった」「この事例ができたからこそ第2号、第3号につながっていく。『ああいう風な活用をすると楽しい空間になり、歴史的な建物が使えるんだな』という、きっかけに絶対なると思います」と期待している。

同クラブは「歴史的まちなみを保全する価値が向上し、単に老朽化し残っている建物ではなく、町屋としての不動産価値創出につながる」と保存と活用の好循環を見据える。

一方、課題として建物の所有者と入居希望者を引き合わせる受け皿と改修費用が挙がる。今回は所有者が改修費を負担し、同クラブが経営する不動産会社が所有者と賃貸契約を交わし、テナントを募集した。

冊子の座談では「貸し手側はいっぱいいますが『貸せる状態に持っていくのに誰がお金を出すの』という問題が生じる」「民間企業が『お金を掛けて借りられる状態にするのでちゃんと借りてもらいますね』というスキームしか残っていないのかな」という意見や、「一から自分が関わっていくと自分の思いを反映できる。借りたい側にもう少し市とかが改装費の補助金を出していけば」との声が出ている。

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蔵からカフェへの転換では市歴史的建造物補助金制度を同市で初めて活用した。この適用も歴史的建造物の保全に向け弾みになる成果となった。

同市は令和3年1月、市街地版の空き家バンク「まちなか空き家利活用促進制度」を創設したが、対象となる1680件のうち、登録は同年12月で16件にとどまった。空き家の売却希望者は多いが、手続き費用や家財整理が原因という。

四年度当初予算では登録を増やすため補助金200万円を計上。空き家を売買する際に必要となる不動産登記や取引仲介手数料、家財処分の経費を一部補助する。利用希望者との成約につなげ、空き家を減少させる。

冊子の座談でメンバーは、「倉敷では行政とのタイアップも完全に出来上がっていました。ただ話を聞いてみると楢村さんらの活動も最初は全く相手にされなかったと。そこから自分たちだけで始めたんだと」と語っている。ボールは松阪市へ投げ返された。