「客の希望をかなえたい」 現代の名工・宮大工 渡邊敏文さん(77) いなべ市の渡辺工務店

【「自分の仕事に満足することはない」と語る渡邊さん=いなべ市北勢町大辻新田で】

大工として62年、宮大工としては42年、研さんを積んできた。「努力して技術を磨き、お客さんの満足度を上げるのが我々の仕事」と考え、注文主の希望をかなえることを追求し続けている。現代の名工に選ばれて「ありがたいこと」と笑顔を見せた。

いなべ市北勢町大辻新田の工場(こうば)では、神社の塀に使う柱を制作していた。八角形の柱の角を削った後、大きさに合わせたカーブのかんなをリズム良く掛けていく。カーブを付けたかんなは自作しているという。

中学校卒業後、手に職を付けるため、15歳で大工の世界に入った。最初は民家を建てる大工の下で修業していたが「寺や神社を建ててみたい」と35歳ごろに一念発起し、勉強し直した。

宮大工の道に進む前も含め、伊勢神宮の式年遷宮にはこれまで3回関わった。「お伊勢さんに奉公しようと超一流の大工が全国から集まる。技術を学べるからあんなにいい現場はない」と振り返る。

ただ、大きな寺社よりも地域の寺社での仕事を大切にしている。「いなべで多くの人に世話になった。資金面でつらい思いをしている寺社で自分の知識や技術を役立て、少しでも喜んでもらいたい」と語る。

「職人は技術を見せたいものだが、いくら良い仕事をしてもお客さんの要望に応えられなければ意味がない」と考える。「相手がどう思うかが大事。仕事に満足することはない」と常に注文主と向き合っている。

「民家を建てながら、寺や神社の仕事ができる子を育てたい」と思い、数年おきに1―2人の弟子を育成している。「職人の世界は結果が出るのが遅い。目的や希望がないと続かない」と危機感を抱き、自らの受賞が後進の励みになることを願っている。