<伊勢市政の課題・上>駅前再開発、見通し立たず 保健福祉拠点、計画見直し

【完成後の見通しが立っていない再開発ビル=伊勢市のJR伊勢市駅前で】

伊勢市の玄関口として知られるJR伊勢市駅前でひときわ目立つ12階建ての新築ビル。駅前B地区市街地再開発事業の目玉として本来は今年4月から供用を開始し、多くの人でにぎわうことが想定されていたが、完成から半年が経過した今もなお、今後の見通しが立たない状況が続いている。

事業は同市宮後一丁目の旧三交百貨店跡地で地権者らが構成する伊勢まちなか開発(河崎一丁目)を事業主体に、12階建ての複合ビルを建設。ハローワークや医療・商業テナント、サービス付き高齢者住宅などが入居する施設として、令和3年4月からの供用開始を予定していた。

市はこのうち5―7階の3フロアを賃貸契約し、福祉健康センター(八日市場町)の主要機能を集めた保健福祉拠点の整備を計画。「妊娠から子育てまで、切れ目のない支援ができる体制づくり」を目指し、令和元年11月には同社との基本合意を締結させた。

しかし、コロナ禍による経済情勢の悪化により入居を検討していたサービス付き高齢者住宅が撤退。同社は大幅に悪化した収支見通しの穴埋めに向け、市に建設協力金(一時金)と称して12億円の貸与を要求したことから、議会で大きな議論を招くこととなった。

市は収支計画の健全化に向けて保留床の売却や都市開発資金貸付制度の活用を前提に計画案の見直しを同社に提案。これを受けて昨年12月、内装設計費用や債務負担行為を盛り込んだ補正予算案を議会に提出し、賛成多数で可決された。

しかし基本協定締結の直前、同社から途中契約時の違約金支払いなどの条件が提示されたことが再び議論を呼び、鈴木健一市長は同社との交渉断念を表明した。

市の入居を前提に事業計画が作成されていたことから、交渉断念により金融機関からの資金融資は得られなくなった。このため工事代金の支払いは滞り、完成したビルは現在、工事を担当した矢作建設工業(名古屋市)の管理下にある。ビルの外観は完成しているが、本来市の施設が入居するはずだった5―7階の内装は壁や配管などがむきだしのままとなっている。

伊勢まちなか開発は8月、新たに矢作建設工業から熊田満営業部長を新社長として招き、市との交渉再開に向けて事業計画の見直しを進めているという。熊田満社長は「一日も早く協議のテーブルにつけるよう、信頼回復を目指したい」と話している。

「保健福祉拠点」は現在、市役所本庁舎東館に一部機能を移転する形で稼働している。一方、会議室や民間専門職のデスク、駐車場の不足など当初の想定と比べて「6割くらいの規模感」(市健康福祉部)という。

補助金の行方も課題だ。総事業費約48億円のうち、約18億円が国と市から拠出される見込みだが、このまま施設の利活用の見通しが立たなければ、文字通り「負の遺産」となる。市民の中には「多額の税を投入してまで建設する価値が本当にあったのか疑問が残る」という声もある。

伊勢商工会議所の水島徹専務理事は「伊勢市の中心市街地として活性化に期待して応援してきたが、このような状態となり非常に残念で危惧している。私どもも力添えできるところはしていきたい。一日も早く方向性を見いだしていただければ」と話している。