聴覚障害はねのけ医師に 尾鷲総合病院の今川さん、今月退任 新天地で専門医資格取得へ 三重

【尾鷲総合病院で医師として働いている今川竜二さん=尾鷲市上野町の同病院で】

【尾鷲】先天性の聴覚障害がありながらも、三重県の尾鷲市立尾鷲総合病院で内科医として働く今川竜二さん(34)が、今月いっぱいで同病院での勤務を終える。今後は、岩手県の病院で勤務しながら、総合診療科の専門医資格の取得を目指す。「医師は天職」と話す今川さん。強い信念を持ち目標に向かって常に努力を続ける。

岡山県出身。小学1年のときに、手塚治虫の漫画「ブラックジャック」を読んだことが医師を目指すきっかけとなった。「難しい病魔にも諦めないで立ち向かう姿がかっこいいと思った」と振り返る。

今川さんが中学生のころは「耳が聞こえない者には医師免許を与えない」とする医師法の壁があった。もともと勉強は好きで、医師になれないのなら教師を目指そうと努力を続け、高校は県内でもトップクラスの進学校に進んだ。

転機が訪れたのは高校生のとき。新聞で医師法が改正されたことを知り、改めて医師を目指すことを決意。教師からは「リスクを犯してまで医学部を受けない方がいい」と止められたというが、今川さんは粘り強く医学部受験を訴え、筑波大学に合格した。

東京都や青森県の病院での勤務を経て尾鷲総合病院に着任したのは平成29年10月。同僚との会話や診察は、相手の口元を見て言葉を読み取る読唇術や筆談を用いている。新型コロナウイルス感染症の影響でマスクの着用が求められるようになり、現在は音声を文字に変換するスマートフォンのアプリを使って診察をしている。

今川さんが働きやすいように、病院も工夫してくれたという。医師の指示で救急救命士らが医療行為の一部をする「特定行為」は、今川さんが電話で指示ができないため、尾鷲総合病院の小藪助成病院長らと医師指示事項などが書かれた、特定行為指示要請書を作成。今川さんが丸を付けた内容を看護師が電話で救命士に伝えるようにした。「病院長は、できないことでも、どのようにすればできるようになるかを一緒に考えていこうと前向きな言葉や行動を示してくれた」と感謝している。

今後の目標に聴覚障害者の健康寿命を延ばすことを掲げる。今川さんがこれまで出会った聴覚障害者の中には「いつ呼ばれるか分からない」「病院に行っても話せない」などの理由で長年、健康診断に行っていない人も少なくないという。「病院に行けなければ病気を見つけることも難しいし、治療することもできない。聴覚障害があっても病院に行ったり、健康診断を受けたりできるよう医療アクセスの面をもっと良くしていきたい」と話す。

「壁にぶつかっても諦めず、乗り越えていくことが大切」と話す今川さん。穏やかな表情から強い信念が伝わってきた。