津5人死傷事故の控訴審初公判 双方、一審判決破棄求める 三重

【「時速146キロで一般道を走り、5人を死傷させた運転を危険運転と認めない判例を残してはいけない」と話す大西夫妻(左、正面)と牛場さん=名古屋市で】

三重県津市の国道23号で平成30年12月末、乗用車がタクシーに衝突し、乗客ら4人が死亡、1人が重傷を負った事故で、乗用車を運転し、自動車運転処罰法違反(危険運転致死傷)の罪に問われ、一審津地裁の裁判員裁判で、危険運転致死傷罪より量刑が軽い同法の過失運転致死傷罪が適用されて懲役7年の実刑判決を受けた津市白山町二本木、元会社社長、末廣雅洋被告(58)の控訴審初公判が1日、名古屋高裁(堀内満裁判長)で開かれた。検察、弁護側の双方が一審判決の破棄を求め、即日結審した。判決は来年2月12日。

検察側は控訴趣意書で一審判決について「誤った故意の解釈、認定方法を採用し、検察官が主張する事実を不当に軽視し、誤った評価を繰り返した結果(危険運転の)故意を認めるには合理的疑いが残るという誤った結論を導いた」と指摘し、一審判決を破棄した上で危険運転致死傷罪を適用するよう求めた。

一方、弁護側は控訴趣意書で一審判決の懲役7年は「量刑不当」と主張。過失運転致死傷罪で懲役七年を宣告した他の裁判例と比較し「それらの事例は酒気帯び運転や無免許運転などの行為を重ねた上での重大死傷事故」と指摘した。また、答弁書で検察側の控訴の棄却を求めた。

一審判決によると、末廣被告は30年12月29日夜、同市本町の国道23号で、乗用車を時速146キロで走行中、道路を横断していたタクシーの側面に衝突。運転手の野村達城さん=当時(44)、いずれも乗客の永田誠紀さん=同(58)、横井大和さん=同(37)、大西朗さん=同(31)の4人を死亡させ、乗客の萩野将志さん(30)に胸部大動脈損傷などの重傷を負わせた。

一審では146キロの走行が制御不能な運転か、制御不能と末廣被告が自覚していたかどうかが争点となった。検察側は論告で懲役15年を求刑。津地裁は判決で、146キロを「異常な高速度」と指摘する一方「わずかなミスで事故を起こすことを具体的な可能性として思い浮かべ、犯罪の故意があったと認定するには合理的な疑いが残る」とし、危険運転致死傷罪を適用しなかった。
■「事故抑止の判決を」 遺族、涙ながらに訴え■
裁判所は被害者の痛みを理解し、危険運転を認めてほしい―。乗用車を146キロで走行して5人を死傷させ、危険運転致死傷罪の罪に問われている末廣雅洋被告の控訴審が始まった1日、事故で亡くなったタクシーの乗客の一人、大西朗さんの遺族が公判後、報道陣の取材に応じ、裁判所に「適正な判断」を求めた。

朗さんの母、まゆみさん(61)は「事故の抑止力になる判決がほしい。亡くなった人たちの死の意味を示したい。それがなければ、つらいだけの事故で終わってしまう。本当はずっと(刑務所に)入っていてほしいが(最低でも一審で検察が求刑した)懲役15年を勝ち取りたい」と話した。

朗さんの婚約者、牛場里奈さん(34)は「こんな判例を残してはいけない。被告には『朗だけでなく私の人生も返してほしい』と言いたい」と述べた。「こんな状況でも被告には家族がいる。私は朗と結婚してこれからだったのに。こんな悲しい思いをする遺族が出ないようにするためにも裁判所には危険運転を認めてほしい」と訴えた。

この日、控訴審は5分ほどで結審した。朗さんの父、正晃さん(68)は「なんと言っていいのか『こんな早く終わるのか』という思い」と語った。自宅を出る前、朗さんの遺影に「頑張ってくるでな」と話しかけたという。正晃さんは時折、声を詰まらせ、ハンカチで涙をぬぐいながら「軽い刑で終わったら後々まで響いていく。そうなったら朗に申し訳ない」と話した。