<伊賀市政の課題・下>旧市役所問題 移転後、使われぬまま 三重

【市役所の移転後は使われないままの旧市役所=伊賀市上野丸之内で】

伊賀市政最大の課題と言えば「庁舎問題」だろう。旧市役所の保存と利活用を進めようとする市側と「解体派」が多くを占める市議会が長年にわたって対立を繰り広げたが、今も解決の道筋は立たない。

近代建築の巨匠、ル・コルビジェに師事した坂倉準三が設計した旧市役所。かつては解体される見通しだったが、保存と利活用を掲げた岡本栄氏が平成24年の市長選で初当選し、風向きが変わった。

しかし、旧市役所の利活用は市の思い通りには進まなかった。旧市役所の利活用に向けた関連予算を提出するも、市議会はことごとく否決。議会が退けた関連議案は、この8年間で約10件に上るという。

その間、地方自治体に有利な合併特例債が使用できなくなった。来年度末の使用期限までに旧市役所のリニューアルが間に合わない見通しとなったため。市にとっては、当てにした財源が断たれた形だ。

一方、解体も難しい状況だ。旧市役所は平成31年3月、市の有形文化財に指定された。議会などから「なぜこのタイミングで」との指摘はあるが、文化財の指定を簡単には解除できない。

市役所が新庁舎に移転してから1年9カ月が過ぎたが、旧市役所は全く使われないまま。「水道は止め、電気の契約も最小限にした」と担当者。駐車場だけが近隣を訪れる市民や観光客に利用されている。

旧市役所は、伊賀上野城を中心とする観光エリアと「銀座通り」と呼ばれる目抜き通りの結節点に位置する。いわば「市の顔」と言われるような場所だが、ぽっかり穴が開いたような状態になっている。

老朽化が進む旧市役所を「まるで幽霊屋敷」と比喩するのは、近隣で商店を営む男性。「伊賀鉄道の忍者市駅を降りて真っ先に目に入る光景がほったらかしの建物ではイメージが悪すぎる」と批判する。

最近でも議会との〝対立〟は収まる気配がない。市は旧市役所を活用する手法を民間に検討してもらう費用を計上した補正予算案を9月定例会に提出したが、市議会はこの費用を削除して修正可決した。

修正可決の理由は「具体的な方向性が示されていないから」(市議)だというが、市も「この段階で新たな一手は難しい」と、ひとまずは静観。ある職員は「市と議会のあつれきは伊賀の伝統だ」とこぼす。

有権者の負託を得た市長の提案に対し、同じく選挙で選ばれた議員らが採決を下す。民主主義のあるべき姿とも言えるが、その〝代償〟はあまりにも大きい。市の現実を直視した議論が求められている。