
【津】伊勢新聞政経懇話会7月例会が31日、三重県津市大門の都シティ津であった。名古屋外国語大学学長でロシア文学者の亀山郁夫氏(71)が「そうか、君はカラマーゾフを読んだのか」と題して講演。ドストエフスキーの人生が作品に与えた影響を「カラマーゾフの兄弟」の物語と重ねて掘り下げた。
亀山氏は「『カラマーゾフの兄弟』はカラマーゾフ家の父と3人の息子の人間模様や2人の女性を巡る愛憎劇」とあらすじを紹介。
ドストエフスキーの人生を決定づける経験として17歳の時父親が殺されたことと28歳の時自身が死刑判決を受けたことの2つを挙げ「父の死を巡り心に生じた謎を一生かけてカラマーゾフ(の兄弟)において解き明かしたのでは」と言及。
また死刑の執行直前に恩赦を受け解放された経験から「『命さえあれば』という生命主義の哲学がここに誕生した。5大長編と言われる作品の全てに影響を与えている」と述べた。
同作から選ぶ好きな言葉の一つとして最後の場面の「カラマーゾフ、万歳!」を挙げ「カラ=黒、マーゾフ=塗るの意味だがロシア人にとって黒は大地や生命を表す。『生命ばんざい』のメッセージにつながっているのでは」と考察した。
亀山氏は平成19年翻訳「カラマーゾフの兄弟」で毎日出版文化賞、プーシキン賞受賞。令和元年12月から日本芸術院会員。