遺族「生きていることがつらい」津5人死傷事故16日判決

【亡くなった永田誠紀さん。車やバイクが好きで、休日には妻のあゆみさんとよく出掛けていた=津市で】

乗用車でタクシーに衝突し、乗客ら4人を死亡、1人に重傷を負わせたとして、自動車運転処罰法違反(危険運転致死傷)の罪に問われた津市白山町二本木、元会社社長末廣雅洋被告(58)の裁判員裁判の判決公判が16日、津地裁で開かれる。判決を前に、夫を亡くした遺族が伊勢新聞の取材に応じ、突然家族を奪われた悲しみの深さを語った。

生きていることがこんなにつらくなるとは思わなかった。残された人たちは、それぞれ心に大きな傷を負っている―。

平成30年12月29日夜、永田あゆみさん(47)=津市=は夫の誠紀さん=当時(58)=を事故で失った。誠紀さんらが乗ったタクシーに乗用車が衝突。乗用車は制限速度時速60キロの国道23号を146キロで走行していたとされ、誠紀さんら5人が死傷した。

その日は誠紀さんが経営する設備会社の忘年会だった。同市の国道23号沿いの飲食店で一次会があり、誠紀さんやあゆみさん、社員、誠紀さんの仕事仲間ら8人が参加。「料理を囲んでお酒を飲み、楽しく冗談を言い合った」とあゆみさんは振り返る。

事故は車2台に分れて二次会へ向かう途中で起きた。あゆみさんはタクシーとは別の車で二次会の店へ。あゆみさんたちが先に出発し、タクシーに乗り込む誠紀さんたちを見たのが最後の姿となった。誠紀さんは別れ際「ママ、すぐ追いつくから」と話したという。

だが、誠紀さんたちは二次会の店へ来なかった。あゆみさんは携帯電話に連絡したがつながらず「タクシーに乗ってたら事故なんてしないよね」。そんな会話を一緒に来た人たちと交わしたが不安になり、一次会の店へ連絡。受話器越しに救急車の大きなサイレンの音が聞こえた。

店員との電話で誠紀さんたちのタクシーが事故に遭ったことが分かり、あゆみさんは急いで一次会の店へ戻った。店の前の道路には大破したタクシーと乗用車が。最初は負傷者の搬送先も分からない中、社員の家族への連絡に追われた。

やがて搬送先が分かり、あゆみさんは同市の三重大付属病院へ。到着すると、知人から「亡くなった人がおり、社長かもしれない」と聞かされた。その時の記憶は曖昧だが、取り乱して大声を上げたことは覚えているという。遺体は「顔がすごくきれいで眠っているみたい。体に触れるとまだ温(ぬく)もりが残っていた」。

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末廣被告は2日の初公判で、事故を起こしたことは認めたが「正確な速度は分からない。車を制御できなかったとは認識していない」と述べ、起訴内容を否認。弁護側は危険運転致死傷罪よりも量刑が軽い過失運転致死傷罪を主張している。

公判で検察側は、末廣被告が過去に8回事故を起こした点や、過去には1年間の免許取消処分を受けている点を指摘。あゆみさんは裁判を傍聴し「びっくりして言葉がなかった。普通は1回事故や違反をすれば気を付けようと思う。家族や社員は注意してこなかったのか。とても250人の社員を束ねてきた社長とは思えない」と批判した。

裁判では末廣被告が運転していた乗用車のドライブレコーダーの映像が、事故以前のものも含めて流された。道路が空くと急加速をしたり、右左折の際などに急減速したりする様子が流され、事故前の映像では加速しながら次々と車を追い抜く様子が映し出された。

あゆみさんは「カーチェイスをしているような運転に身震いし、こんな人に私たちの大切な人を殺されたのかと思うと悲しくて仕方がなかった。夫を亡くし、従業員も亡くし、全てを奪われたような思い」と声を震わせた。事故後、一度は会社をたたむことも考えたが、友人知人に支えられ、営業を続けているという。

「被告は亡くなった人や遺族について何も知らないのではないか」。あゆみさんは裁判が始まる前からこんな思いを持っていた。きっかけは末廣被告が遺族に送った謝罪文だ。偶然、他の遺族と互いの謝罪文の内容を確認する機会があり、読み比べると宛名以外は文面が同じだったという。

あゆみさんは「遺族のことを知っていれば文章に自然と違いが出てくるはず。亡くなった人たちにはそれぞれ家庭があり、残された人たちも心に大きな傷を抱えている。それが分かれば、こんな判を押したような同じ文面にはならない」と非難した。

公判でも、あゆみさんは末廣被告が次女の結婚話を披露したことに怒りを覚えた。事故で亡くなった社員の大西朗さん=当時(31)=が結婚を間近に控えていたからだ。「自分が起こした事故で亡くなった人がどんな人か知っていれば、娘の結婚話を法廷でできるわけがない」と怒りをあらわにした。

あゆみさんは求刑の懲役15年について「軽すぎる。最低でも(危険運転致死傷罪の上限)20年。これほどの事故を起こして過失運転だったら、今後の別の裁判でも今回の判決が基準にされてしまうかもしれない。裁判所には危険運転を認めてほしい」と話した。