たい焼き「日吉屋」が閉店 伊勢の老舗 「一丁焼き」こだわり70年 三重

【約70年の歴史を閉じたたいやき店「日吉屋」の女性店主=伊勢市内で】

【伊勢】三重県伊勢市吹上一丁目の老舗たい焼き店「日吉屋」が3月末に閉店し、先代から通算約70年続いた営業に幕を下ろした。営業最後の31日には常連客をはじめ多くの人々が店を訪れ、別れを惜しんだ。

販売するのは昔ながらのあんこが詰まった1匹150円(税込み)のたい焼き1種類。量産型の金型を使った「養殖物」ではなく、重さ約2キロのハサミ型の金型で一品ずつ時間をかけて丁寧に焼き上げる「一丁焼き」による「天然物」にこだわり続けた。パリッとした皮の食感にしつこさのない上品な甘さが特徴で、過去には人気テレビ番組で紹介されたこともあった。

「おかあさん」の愛称で親しまれる女性店主(75)が、先代の母親から店を継いだのは約40年前。裏表のない性格で客との衝突も少なくなかった。それでも全国から足を運ぶ人々は後を絶たず、時には人生相談に応じることもあったという。

人一人立つのがやっとといった狭い店の奥にはこれまでの常連客から届いた花束や贈り物が山積みとなっていた。最終日にも多くの客が訪れたが、予約販売だけと知ると、残念そうな表情を浮かべ、店主にねぎらいの言葉を贈っていた。

3日前に予約したという付近に住む女性(71)は「本当に残念。犬の散歩で通るたびに自分の息子のようにかわいがってくれた。いいお店に限ってなくなってしまう」と寂しげに語った。

当初から75歳で店を閉めようと決めていたという。後継者はいない。「教えてほしいという声はあったがもうけを考えるならできない。だから断った」。最終日を迎え、「お客さんがいなければここまで続けることはできない。感謝しかない」と笑った。