
【伊勢】三重県伊勢市は31日、開催中の「市美術展覧会(市展)」で、運営委員の一人が出品した従軍慰安婦像を扱った作品の展示を取りやめたと発表した。「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」での騒動から脅迫行為などへの懸念を理由に挙げており、鈴木健一市長は「会場の安全を最優先した」としている。
作品は同市柏町に事務所を構えるグラフィックデザイナー花井利彦さん(64)が手がけたデザイン「私は誰ですか」。黒地に石を持った赤い右手を中央に配し、左上には中国の慰安婦像の写真をコラージュ。その下には日本語や英語、韓国語、中国語で「私は誰ですか」の文字を連ねた。
花井さんによると、運営委員の一人として作品を会場に持ち込んだところ、運営委員長が問題点を指摘。27日に臨時の運営委員会を開いて展示の是非を議論し、市と市教委に判断を委ねたところ、翌28日に展示を断られたという。
花井さんは不自由展での騒動を受け、表現の自由を問いかけるために制作したといい、「政治的メッセージは1%くらい。あくまでも表現の不自由がテーマ。見る人の心にくさびを打ちたかった」と話す。
展示を断られた後、慰安婦像の部分を黒いテープで隠すなど修正して展示を求めたが断られたとし、「まさに検閲であり表現の自由を侵害している。多様な表現を萎縮させることになる」とした。一方で、脅迫など騒動への懸念については「全く問題になるとは考えていなかった。売名や炎上目的ではない」と述べた。
市役所で会見した鈴木市長は取りやめの理由について、「持ち込まれている時に慰安婦像である認識があった。あいちトリエンナーレにおいて脅迫やテロ行為などがあり、市民の安全や運営が非常に危惧される混乱が生じる可能性があると運営員会から聞き、会場の安全な運営を第一に考えて方針を決めた」と述べた。
検閲への指摘については「全く当たらない。作品の芸術性には関与しておらず、安全な運営を第一に考えた」と説明。「思想の自由、表現の自由と会場の安全面の運営とは切り離して考えていきたい。安全な運営は鉄則。万が一があってはいけない」と主張した。
市展は市の美術や文化振興を目的に市や同市教委主催で毎年開催し、今年で66回目。今年は10月29日―11月3日の日程で同市岩淵一丁目のシンフォニアテクノロジー響ホール伊勢で開催し、平面造形やグラフィックデザインなど5つの分野に約260点が出品された。