日本のマーケティングに課題 湯之上氏、渡邊氏、小林本社社長が鼎談

【(右から)湯之上氏の話を聞く小林社長と渡邊氏=津市本町の伊勢新聞社で】

本紙連載「半導体漫遊記」の著者で微細加工研究所=埼玉県新座市=所長の湯之上隆氏(57)が、三重県津市本町の伊勢新聞社本社を訪れた。湯之上氏の訪問に合わせ三重大学工学研究科リサーチフェローで名誉教授の渡邊明氏(73)を招き、両氏と小林千三・本紙社長が日本のマーケティングの課題やデータを巡る米中の攻防について鼎談した。

小林 ようこそおいでくださいました。

湯之上氏 渡邊先生は経営学がご専門でマーケティングもされている。日本の企業はそもそもマーケティングのとらえ方が間違っていると感じています。

渡邊氏 そうですよね。

湯之上氏 日本は17兆円の研究開発費のうち6割が事業化されずに消えている。経産省の調査だと基礎研究やアイデア段階の上流よりも事業化を判断する下流でマーケティングをしていてこれは順番が全く逆。日本の製造業1000社でマーケティングの専門部署がある会社はほとんどなく、当て外れの研究で毎年10兆円が消えているんです。

渡邊氏 大学の研究も市場のニーズを考えていない。売れなければ意味がないので学生に「売れない商品はごみだ」「売れない品を売れる品にするのもマーケティング」と言っています。

湯之上氏 その通りです。大学の客員教授だったとき日本の企業は修士卒の技術者を採用したがり外資系の企業は博士課程のエースをマーケティングに採用したいと来た。サムスンは一番優秀な社員をマーケティングに当てていてこれがグローバルスタンダード。日本の企業は認識を改める必要があります。

渡邊氏 いろいろな企業にヒアリングをしても「消費者」という言葉が意外と出てこない。これは怖いことで頭で考えて作っているから市場から離れている。

湯之上氏 以前世界13カ国の家電売り場を回って定点観測しましたが、どこの国でもサムスンとLGで日本製品は片隅で埃をかぶっていた。サムスンはその国の事情に合わせ工夫した家電を作っているが日本は「高品質」というばかり。

小林 世界新聞大会でインドに行ったときホテルのテレビがサムスン製で、操作が分かりやすく日本は勝てないと思いました。

湯之上氏 この間の連載で書いたのですが(1月22日付本紙連載『半導体漫遊記』「米中ハイテク戦争の裏側」)、米国と中国は今データを巡る戦争が激化している。中国の「国家情報法」は14億人全て、当然ファーウエイなどの企業にもスパイ行為を命じることできる法律。これに対し米国は「国防権限法」で世界中の企業にファーウエイなどに通じることを禁じた。法律と法律のぶつかり合いです。

渡邊氏 この記事は工学部の院生に配りました。

湯之上氏 今世界はデータ戦争でもう中国に負けています。データは通信基地局を必ず経由しますが世界の基地局は中国にほぼ制覇されている。

渡邊氏 大変な事態ですね。私は今工学研究科の大学院でプロジェクトマネジメントを教えています。企業を動かすような人の話を聞くことで迫力のある若者が育つのではないかと思っているので、ぜひ湯之上先生に講義していただきたい。

湯之上氏 大学の講義依頼は無条件で受けるようにしているので僕でよければ話しに来ますよ。

小林 両巨頭のお話が聞ける貴重な時間でした。お忙しい中ありがとうございました。

〈略歴〉湯之上隆(ゆのがみ・たかし)昭和36年静岡県生まれ。京都大学大学院修士課程原子核工学専攻を卒業後、日立製作所に入社。16年にわたり半導体の微細加工技術開発に携わる。平成12年京都大学より工学博士。同15―20年、同志社大学専任フェローとして半導体産業の社会科学研究を推進。同22年微細加工研究所を設立し半導体技術者と社会科学者の経験を生かし執筆やコンサルタント業務に従事する。京大原子核工学、東北大工学部非常勤講師。著書に「日本『半導体』敗戦」(光文社)。