▼「オレの目を見ろ、何にも言うな」は、北島三郎さんが歌う『兄弟仁義』。分かり合うのに言葉は不要。目を見れば十分と言っている。「私の顔を見て下さい。うそを言っているように見えますか」と言われると、何だか詐欺師の決まり文句の気がする
▼女性の動画を見せると、チンパンジーの赤ちゃんはしぐさを、人間の乳児は顔を見る。京都大の明和政子准教授らのチームが、だから人は顔色を見て物事を理解し学ぶ―と英科学誌に発表したと聞いて、顔色ではなく目の動きではないかと考えたのは身の程知らずなことだった
▼宮本武蔵は敵に対した時、目の玉を動かさず「常の目よりも少し細やうにしてうらやかに見る」。全体が見え、動きが読めるというのだが、動きを悟らせない効果もあるのだろう。相手の考えを知ろうとして目を見つめ、考えを知られないために目を伏せるのは私たちがよく取る行動だ
▼東京芸術大学美術学部は卒業に自画像制作を課しているが、学生らの悪戦苦闘ぶりをテレビで見た。見慣れているはずの自分の顔も、画家の卵が見れば、とらえるのは大変らしい
▼数年前、東京・東銀座の地下道の画廊で、女性画家が『三百六十五日の自画像』と題して多数の作品を展示していた。本人を見て驚いた。中肉やや小柄で、顔立ちはチャーミング。ところが自画像の八割は美人にほど遠く、小太り
▼「家で化粧はしないので」と言っていた。男性に比べてじっくり眺める時間の多い女性が、自分の顔をどう見ているか分かる気がしたが、顔色の観察力も、男性と女性では差があるのかもしれない。 |