大観小観

2016年12月4日(日)

▼青森県に住む父親が、東京で学生生活を始めた息子に手紙を出した話がある。見た息子が友人、先輩らと首をひねった。ズーズー弁の言文一致体で、最近まで一緒に暮らした息子でさえ何を書いてきたか分からなかったのである

▼県内のコンビニATM(現金自動預払機)四百五十六台に運営会社が三重弁の音声案内を導入した。伊賀弁、紀北弁、紀南弁、伊勢弁の声を一人で担当した津市出身の女性が「イントネーションが難しかった」

▼機械語や音だけまねるオウムでは会話の大事な部分を欠落させているに違いない。初めびっくりした鈴木英敬知事も「あったかい気持ちになった」というのは社交辞令でもあるまい。もっとも賢いオウムは飼い主の状況に合わせて単語を選ぶらしい。スズメも声まね上手。鳥は飛びながら呼吸するため呼吸中枢を制御する機能が発達し、音まね上手になると岡ノ谷一夫東大教授が書いていた

▼霊長類で人間が飛び抜けて音声言語を発達させたのは産声によるという。野生動物なら危険な幼児のけたたましい泣き声だが、音を制御する大脳の回路を発達させたというのだ。日本人はしかし、未知の人との会話がほとんどなくなっているという統計がある

▼仲間うちでも込み入った会話は少なくなり、IT(情報技術)機器と黙々と向き合う子どもが増えた。店員が話しかけてくる店は敬遠されがち

▼店側も、あいさつや案内を自動化していく。三重弁のコンビニATMもその一環か。疑似コミュニケーションが心地よく、巡り巡って人間の会話能力をさらに低下させていくのかもしれない。

2016年12月3日(土)

▼カジノ法案(統合型リゾート施設整備推進法案)にほとんど関心がなかったのは、昭和六十二年のリゾート法で県の「三重サンベルトゾーン構想」が認定第一号となった時、志摩郡選出県議が議会でカジノ解禁と誘致を訴えたからかもしれない

▼衆院議員だった野呂昭彦前知事が議員連盟の代表を務め、余暇、休日の過ごし方だけではなく、生活の質を含め「リゾートが日本を変える」みたいな勢いだったが、具体的に観光客を呼び込む確実な施設が必要だというのがカジノの提唱だった

▼みんなが夢を追おうとしているのに、手っ取り早いギャンブル頼りかと批判したが、議会でも同調者は出なかった。三年前に自民党がカジノ法案を提出した時も、一度も審議されずに廃案へ。観光振興策には付きもののアイデアだが、良識の府はそれを許さないと、何となく得心するところがあった

▼わずか二日間の審議で委員会採択とは―。カネが敵の世の中で、青少年への悪影響は二の次だというのはサッカーくじの所管が文科省ということで思い知ったが、カジノ法は自殺者増で厚労省と内閣府で共管するか

▼鈴鹿市長の後援会長がボートピア(場外舟券発売場)を市職員を伴って視察して反対運動が市中に広がったのは平成六年ごろ。体感治安悪化や家族離散などの先行地例が回覧されて沙汰やみになった

▼ギャンブル依存症は国民の5%弱というが、元同僚二人がパチンコと競艇で一家離散した。数字よりはるかに身近な問題だが、名張市であれよあれよという間にボートピアが開設。理想より実利は、遠い欧米の話ではない。

2016年12月2日(金)

▼若い女性の障害者からの申請書を市役所の窓口業務で受け付けた桑名市の職員が、記載された氏名や電話番号を悪用して、いたずら目的で連絡し、会ったり、交際していた。市議のネクタイ万引や病気療養中の職員の海外旅行など、同市の不祥事は、公務員としての常識を突き抜けている

▼水道汚職が発生した平成二十一年、市は不祥事再発防止計画書を策定し、職員一人ひとりの使命感や意識改革を誓ったが、そんなことで追いつく話ではない気がする。桑名市の職員と言えば、平成七年に就任した北川正恭知事がカジュアルデーを打ち出し、同市での住民との対話集会でポニーテール型のヘアスタイルの男性職員を見て「いいですねえー」と笑ったのを思い出す

▼県職員の女性の制服が廃止され、男性のネクタイ、スーツ姿が消え、山登りでも行くような締まりのないスタイルが広がった。来庁者と職員の区別がしくくなり、公務員としてのメリハリが失われていく気がしたが、桑名市はそんな風潮の最前線を行っているのではないか

▼戦国武将の気性の荒さを改めるため、小笠原流などの礼儀作法が武家社会に浸透していった。形から入るのはあらゆる精神文化に共通した修養の方法であり、最近のスポーツ界の「ルーティン」にも通じよう

▼再任したばかりの伊藤徳宇市長は、これまで効果がほとんどなかった不祥事防止対策を「さらに徹底する」と言うが、鈴木英敬知事もこのところネクタイの着用が増えた。形の大切さに目覚めたのかもしれない。コンプライアンスや公務員教育はやめて、少し見習ってはどうか。

2016年12月1日(木)

▼監査委員に鈴木英敬知事の伊勢地域の後援会長が選任されていたというあきれた事態に、共産党の山本里香県議が県議会で「知事の定例記者会見で初めて知り、びっくり」と前置きし「後援会長と言えば政治的には家族以上」と罷免を求めたのに対し、鈴木知事は「知事が議会の同意を得て」と地方自治法の選任手続きを引用した

▼かけ合い漫才を見る思いがした。監査委員の選任について、法は議会の同意を優先し、知事の選任案上程は形式的。同意を得ていない上程は無効とされる

▼選任の責任が議案を上程した知事にあるか、同意を与えた議会にあるかは微妙。山本議員は知事が会見で「僕じゃない、監査委員事務局が選んだと言っている」として、そんな釈明は「通用しない」と批判したが、そもそも知らなかったという弁解は知事、議会ともに通用はしまい

▼山本県議はまた、本人が「監査委員を受けられたことにも驚き」と言いながら、一方で「人格が高潔で、能力が高いことは事実だと思う」。知事も、誠実、公正、手心を加えるようなことはないとしながら、記者会見で「本来受けないですよね。常識のある人なら」と問われ「かもしれないですけどね」

▼同じ脚本でかけ合いをしているようなのである。定期監査が公正だとか、「合議」だから職務執行は適正とか、監査委員の認識も知事は違っていないか

▼住民からの監査請求をいかに却下するかが監査委員の本来の能力と言われる。後援会長職は退く方向というが、現、元を問わず、後援会長なる人格が、頼もしい存在であることは言うまでもない。

2016年11月30日(水)

▼伊賀市長選で民進党系会派「新政みえ」の県議から転じた候補が敗れたことで、同会派の三谷哲央代表は「残念ながら(三つどもえによって)現職への批判票が割れたことが大きい」と語った。四日市市長選の結果について、今度は何と言うか

▼四日市市長選候補は伊賀市と違って、れっきとした民進党推薦。同党系県議、市議や連合三重が大規模支援をした。何といっても、同党前代表の岡田克也氏のおひざ元。国政と市政の違いはあるもののある意味、同党公認候補の勝敗に代表の座をかけた先の参院選以上に、岡田前代表の威信が問われかねない

▼伊賀市長選で民進党系前県議とともに自民党推薦候補を敗北させ、三代にわたって同市を地盤にしてきた川崎二郎衆院議員は敗因について「庁舎移転に反対する旧上野市の票が(民進党系前県議に)に集中した」と語った

▼三谷代表が指摘した割れた批判票を、自民党の立場からより具体的に示したと言っていい。予測されたことが予測通りだったと言っているのに等しいが、四日市市長選挙でも「敵陣営の直前の候補者一本化で、割れるはずだった相手票がまとまってしまった」とでも言うだろうか

▼先の参院選で芝博一氏が四日市市で得た票は約七万五千五百票で、得票率は52・76%。市長選の民進推薦候補は同四万四千票で、同48・84%。負けに不思議の負けは無いというが、岡田前代表の威信低下か民主王国の落日か。政党離れの一環か

▼県議の相次ぐ敗北は県政と市民の距離に関係があるのかどうか。志摩市長選に続き、鈴木英敬知事も分析を急がねばなるまい。

2016年11月29日(火)

▼伊勢志摩サミット開催後半年を振り返り、マクロ的には好調だが「ミクロでは濃淡がある」と鈴木英敬知事。志摩市民への共同通信社アンケートで「期待外れ」の回答が60%というがその「淡」の方ということだろうが、もともと安倍晋三首相の強い思い入れで開催地となっただけという見方がなきにしもあらず。どんな期待をしたかは、そのためにどんな努力をしたかを抜きにしては語れまい

▼MICE(国際会議など)誘致のため三重大などと提携したり、記念のシンポジウムを開き「サミット県民宣言」を発表。効果はともあれ、県が「チャンスをつかんでいく行動を少しでも長くしっかりやっていく」(鈴木知事)と努力を継続しているのは確か

▼「一過性で終わらせてはならない」を合言葉に、同じように県全体で盛り上げた二十年前の「まつり博」が、閉会後急速に立ち消えたことに比べ、評価はできる

▼「ほどほど≠ニ評される」県民の心と行動に安らぎを見てきた側として「変化をもたらした」という『県民宣言』に恐れおののくが、冒頭に掲げた「おもてなし」について、俳人の長谷川櫂さんが、もてなす側が「これ見よがしに口に出していう言葉ではない」とテレビで話していた

▼東京五輪誘致以来「おごる」に近い意味で使われているが、何日か後、何年か後に「あれが」と気づくかもしれないのが日本の「もてなしの心」「もてなしの文化」だと

▼ふるさと三重に育まれてきた日本人を象徴する文化としているが、インバウンド(訪日外国人)相手だからまあいいじゃないかということでもあるか。

2016年11月28日(月)

▼津田健児県議が県議会で、相模原での殺傷事件を受けて、防犯対策に「県はソフト面でどのような対策を取るのか」と尋ねたのは、県の関連補正予算案二億四千万円が防犯カメラの設置など、ハードに傾斜しているからだろう

▼対する伊藤隆健康福祉部長の答弁は「四月に施行された障害者差別解消法を受け、相談窓口の設置や研修会の実施・・・」。七月の事件発生に伴うものはない。ソフトについては、補正予算案上、何も対策はとられていないと見える

▼ハードについても、防犯カメラ設置などは国が補助事業を立ち上げたことに合わせて計上し、県の考えを反映させたものではないようだ。防犯カメラは部外者の侵入に効果的だが、相模原事件は警察の指導で警備の強化をした中で発生している。元職員の犯行にどこまで有効か

▼鈴木英敬知事は「差別の解消に取り組む」。公式の場で「差別」という言葉を知事が使うのは珍しい。国が部落差別、女性差別、障害者差別など、差別解消施策を「人権」の言葉に置き換えて以来、県の施策に「差別」の文字が入るのは最小限。障害者差別解消法の成立で施策の方向転換が求められている

▼県人権施策基本方針で取り上げられているのは「障害者の人権」。対策は権利擁護の視点に貫かれ、取り組みは答弁同様、一般的啓発が中心

▼「差別はある階層、集団に向けられ、人権は個人を対象とする」と言ったのは武村泰男・元三重大学長。「見舞いに全く来ない親族もいる」状況は県内の特別養護老人ホームなどの施設でも変わりない。知事の差別解消発言の具体化が急がれる。

2016年11月27日(日)

▼やはり、ということか。衆院選挙区の区割り改定作業を進める衆院選挙区画定審議会に提出した知事意見書で、共同通信のまとめによると、定数削減対象六県で、三重だけ知事の意見でないものを提出していたようだ(公表していない奈良県を除く)

▼知事意見書としてはルール違反、県お得意の行政用語では「不適切」だったのではないか。青森県が「地方の声が国政に、より反映されるよう引き続き議論を」。岩手県が「区域が大きく変更されることのないよう。そもそも選挙区減に反対」。熊本県が「地域創生に逆行」。鹿児島県が「鹿児島市が県人口の約三分の一。離島も多い。大方の理解を得られる区割りを」

▼いずれも堂々たる知事の意見だが、三重県は「地方の切り捨てにならない制度の実現に」。頑張ってくださいよと唯一、改定作業そのものに賛成し、激励しているかのように受け取れる。「地方の声をより反映」ではなく「切り捨てにならない」ならいいのだから

▼それも意見には違いないが、かっこを付けて「県内自治体の意見として」と補足説明がある。自治体が県で、知事の意見だと区割り審は勘違いするかもしれないが、鈴木英敬知事の「市町の意見を尊重した」「具体的に区割りについて意見したのではなく」などの説明を何度も聞かされた側としては、市町の意見だと念を押していると分かる

▼知事意見ではないばかりか、市町の意見に転嫁した上で、極めて誤解を招きかねない表現。「市町の意見を尊重した」と言えるかどうか。国のやることにとにかく逆らいたくない印象ばかり際立つ。