大観小観

2016年9月25日(日)

▼女性活躍がテーマの県主催国際フォーラム「ウイメン・イン・イノベーション・サミット」で、女性が活躍できる社会の環境づくりを加速する共同宣言が採択され、鈴木英敬知事が「県は女性活躍を継続的に支援していくためのプラットフォームを構築する」

▼プラットフォーム? 駅の乗降場ではなく、転じて基礎、基盤の意味。海底資源開発で洋上に建設する鋼構造物もそう呼ぶらしいが、コンピューター用語では「環境」。この場合は、これか。時代の最先端を走る知事の言葉は、周回遅れを感じる向きには難しい

▼続く「女性活躍のムーブメントを加速させ、活躍推進のアクセルを踏む」は女性活躍の政治的、社会運動を加速させ、活躍推進を加速させる、か。やはりカタカナ言葉を入れた方が、知事の明るい、元気な言動と相まって前向きの雰囲気、いやムードを感じさせる。ムード先行で終わらぬことを願いたい

▼足元の県庁人事にその傾向が強い気がするからだ。ノーベル賞の女性受賞者十番目までを昔、三重大の小川真理子教授が分析していた。最初の三人は夫婦で受賞。次の三人が妻であり母親。続く三人は独身だが、受賞年齢は八十一歳、七十七歳、七十一歳

▼その間に、誰もが首をかしげる独身女性の選考漏れが数件。県の女性幹部登用がノーベル賞受賞三世代のどの段階になぞらえられるかはともかく、人事で女性活躍のムーブメントを起こすには、評価とともにサプライズが不可欠。知事も大好きな気がするが、一向に「堅実」の域を出ない。基盤の環境づくりがいかに進んでいないかに違いない。

2016年9月24日(土)

▼役場からの連絡で妻が不法投棄ごみを片付けさせられたことがある。複数のビニール袋の一つに社名入りの原稿用紙が数枚入っていた。我が家が出したものに違いない。処理しなければしかるべき措置を取ると言われたそうだ

▼社名で我が家を特定したのはさすが田舎の役場だが、原稿用紙以外のごみに見覚えはなく、投棄場所の山中にも行ったことがない。投棄犯に決めつけられたの心外だが、社名を出された以上、あんまり抵抗するのもという妻の言い分も田舎ならではで分からぬでもない。誰かがやらねばならないのをボランティアでやったと納得した

▼和解を目指す調停だから相手を刺激したくないのかもしれないが、河川敷の油汚染問題で「周辺環境の保全が一番大切」といういわずもがなの社会通念を持ち出して原因追及をさぼるかのような県廃棄物対策局長の議会答弁はいかがなものか。排出事業者の処理責任を定めた廃棄物処理法がすべて尻抜けになる

▼毒性の強いポリ塩化ビフェニール(PCB)を含む油の流出が見つかったのは平成十九年。拡散防止対策に県費五十一億円が投じられたという。コスモ石油相手に民事調停を申し出ながら、原因企業の特定はせず「企業と共に周辺地域の環境を保全していこう」というのは公平・公正な手続きを優先すべき行政の本筋と矛盾しないか

▼コスモ石油も、原稿用紙数枚で投棄犯と決めつけられ、法的手続きという手段で世間に大きく公表され、追い込まれているのか。県は民間を法手続きの場に引きずり出す以上、原因企業の特定をうやむやにしてはなるまい。

2016年9月23日(金)

▼日銀総裁の黒田東彦氏は昭和五十九年、当時の大蔵省から県の総務部長に赴任し、二年間務めた。職員が行き詰まった課題を上げていくと「えっ、そんなことしていいの」という型破りの案を指示したというから栴檀は双葉より芳し、である

▼県では「国際金融通」との評が定着していた。そうなんですかと聞いたら、いつものにこやかな表情が消え「(大蔵省には)たくさんいる。私なんかは」。当時四十一歳。同省課長補佐級で赴任し、課長級で帰還。現場監督の役どころだろうが、思わぬ反発を感じてたじろいだ

▼十三年後、自他共に国際金融通で任じる榊原英資氏の後を順に追って国際金融局長から財務官へ。昔の質問をしたら今度は笑顔を向けてくれただろうか。異次元緩和からマイナス金利などの効果を市場の裏をかくサプライズで増幅してなお「2%の物価上昇目標を二年で達成」の約束は実現できなかった

▼石油下落、消費税引き上げ、海外の景気鈍化のせいで、それがなかったら達成できたと言う。二年の縛りを外し、量から金利への今回の金融政策の枠組み転換も、緩和策継続のためで、困難とされる長期金利のコントロールを「できると思っている」。市場の機能に介入する

▼「国際金融通」の自負は明白に見えるが、どうか。昔日の否定は謙譲ではなく先輩、同僚への強烈な競争心に根ざしていたのかもしれない

▼「研究するほど、通説以外の可能性が広がる。学者は専門分野について語るのはどうしても慎重になる」と言ったのは文芸評論家の平野謙。国際金融通には専門への畏怖はないのだろうか。

2016年9月22日(木)

▼科学音痴で、NHK教育テレビの科学教育番組『サイエンスZERO』での知識で書くのは恐縮だが、昨年十二月の放送で、慶應義塾大学先端生命科学研究所の堀川大樹特任講師が紹介した極小動物クマムシの強さに驚いた

▼からだから水分をはじき出す冬眠ならぬ乾眠で、天下無敵の不老不死。高音や極低温にも耐え、宇宙空間に放り出しても、水さえ与えれば何事もなかったかのように動き出すというのだ。生命の起源は宇宙にあるという仮説にうなずきたくなる

▼堀川さんを含む東京大などの研究チームが人の培養細胞でクマムシの遺伝子を働かせたら、DNAの損傷が少ないどころか放射能に耐性を持つようになった。惑星間飛行にもかすかな光が見えてきた

▼なぜクマムシそんなに強いか。解明はこれからだが、放射能耐性ゲノムを突き詰めた結果、1・2%が外来遺伝子だったという。脱水、吸水の際、受け入れやすい瞬間があるらしい。目の誕生は五億年前、クラゲ状の動物が植物プランクトンの光感知遺伝子を取り込んだためというのも『NHKスペシャル』で見た話だが、不老不死や放射能耐性人間など不気味なSFの世界のトビラを開いたのかもしれない

▼今は研究者は多いのだろうが、堀川さんが認められたのは米航空宇宙局(NASA)宇宙生物学研究所で所長賞を受賞したのが最初。その後国内の研究公募に全敗。研究を続けられたのはやはりNASAの審査に通ったおかげという

▼「米仏でも同じ研究が進んでいる」と言えば審査に通るのが日本、とクマムシ以上におもしろいことも言っている。

2016年9月21日(水)

▼障害者施設が襲われた相模原殺傷事件で、県が県内社会福祉施設を調べた結果、約九割が不審者侵入に備えたマニュアルを定めていなかった。これまで「災害対策」中心で「防犯対策は新しい課題」と、県健康福祉部の人権・危機管理監。なかなか正直だ

▼安全・安心は、前知事時代から続く県政の至上課題。古今東西、防災、防犯がその二本柱で、鈴木英敬知事が体感治安の悪化に言及したのは数年前。県は公用車へ企業広告を掲載しているが、市町の防犯協会は不審者から児童生徒などを守るため、自家用車への警告掲載を進めている

▼「新しい課題」は社会福祉施設に対してだけ。換言すれば、県の防犯対策から社会福祉施設だけがすっぽり抜け落ちていたことを表していないか

▼事件後の注意喚起で、各施設が安全点検や警察との連携に取り組んだのは当然として、九割不備の現状で「道半ば」と評する感覚も、なかなかにユニークだ。語意は「目的地に対して道の途中までしか進んでいないこと」。スタートしたばかりでも、言葉の使い方が誤りとも言えない

▼名優、故緒形拳はファンに色紙を求められると「尚半」と書いた。「道はなお、半ばなり」の意。頂点を極めながらなおこの心構えは、世阿弥の「初心忘れるべからず」。すなわち習い始めた気持ちをいつでも、いくつになっても忘れるなの自戒に通じる

▼マニュアル整備のあと実践的訓練や臨機応変の応用などが続き、防犯対策の道も果てしない。緒に着いたばかりで「道半ば」というのが、終わりなき道もものともせずの意気込みというなら頼もしい。

2016年9月20日(火)

▼いったい今日は何の祝日かがピンとこなくしたのがハッピーマンデー制度だが、知事ら県幹部の高齢者慰問が最近とんとご無沙汰なのも一因と昨年の「敬老の日」に書いた。さらに検索してみると平成九年に高齢者在宅生活支援事業補助金とともに、慰問事業そのものが廃止されていた

▼「老人の日」と書くと紛らわしいが、毎年日付けが変わる「敬老の日」に反発して関係団体が旧の十五日を記念日として定めたのが「老人の日」。国がこの日に内閣総理大臣祝状と銀杯を変わらず贈呈しているのは矛盾で、授与役の県が知事らのお役御免で、重みが薄れた感は否定できない

▼高齢者慰問事業は百八十六万円。レジャー重視のハッピーマンデー制度推進役を自任した北川正恭元知事の北川改革で廃止された。県に本来求められていない事業というのがその理由。県にとって何が大切で、何が不要かがよく分かる気はする

▼鈴木英敬知事の代になると、だからその辞書に、もはや高齢者という言葉がないのではないか。知事自身が活動記録をつづる「知事ブログ」で、九月に高齢者関連行事に参加したことは就任以来、一度もない

▼今年の「老人の日」の前日の知事会見。約千七十億円に達した伊勢志摩サミット経済効果を第一に発表したのは当然として、次に挙げた「農福連携全国サミットinみえの開催」で、障害者福祉への農業の役割を大いに推奨したが、高齢者問題にはひと言も触れなかった

▼自身の政策課題である障害者雇用に役立つならいいが、高齢者の存在は農業改革のじゃまという思いもあるのかもしれない。

2016年9月19日(月)

▼もっぱら東京に集中していた地方政治の関心が強引に富山市に向けさせられた思いがする。政務活動費の不正で辞職、辞意表明した市議が最大会派自民党で六人、民進党系会派で二人。県議会にも飛び火して自民、民進系それぞれ一人

▼共通アイテムは「せこい」。舛添要一前都知事や前兵庫県のこまめな公費請求では、個人のあきれた所業の印象だったが、富山県・市では会派ぐるみ、議会ぐるみの広がりさえ見せている

▼後続の辞職組は「先輩に教わり、そういう世界かと思った」「まことに認識不足」など、国会で相次いだ秘書給与流用事件を思わせる。議会事務局は、細部が追及できない制度でチェックを重ね「性善説に立っていた」

▼最大会派会長に白紙の領収書を渡したのが印刷業者だというのがいかにも地方政治。数代前の鈴鹿市長が二代続けて退職後、縁戚の営む文房具店が廃業している。その次の代の市長の時は「市が購入するコピー機を、うちも通したことにしてやると市長の関係者から連絡があった」(事務機社長)

▼大量の印刷物を消費する地方自治体で、発注先に利権を持つのが議員という構図が透けて見える気がする。発覚のきっかけが議員報酬増議案取材中の地元紙女性記者に自民会派長が、暴力で取材メモを取り上げたことというのがおもしろい。反発した地元紙の粘り強い取材がなければ、不正はまだしばらく温存されていたのではないか

▼地方政治の不祥事のたびに「どこにでもある。取材すればわかることではないか」と言うのは元総務相の片山善博氏。頂門の一針とせねばなるまい。

2016年9月18日(日)

▼「さみしい思いがするが」と竹上真人松阪市長。松阪港と中部国際空港を結ぶ海上アクセス松阪航路の年内廃止を決断した。刀折れ矢尽きた感があるが、この際、県の思いを聞きたい

▼海上アクセスが、中部空港誘致合戦敗北の後処理の一策であることは周知の通り。東海三県一市のうち、愛知県が常滑沖を候補地に、県は岐阜県、名古屋市とともに鍋田沖で対抗。勝利を確信していたが、岐阜の寝返りで一夜にして逆転。岐阜が名古屋港からの海底トンネル構想の実現を愛知県に突きつけたことから、県も見返りを求めるべきだの声が議会から上がり、木曽岬干拓県境争いの有利な決着とともに海底トンネルの二番煎じのような海上アクセス構想が持ち上がった

▼結局、どちらも何の譲歩も引き出せなかったが、だからやめますとも言えずに海上アクセスの検討へ突っ走った。七市に立候補させて各市長らに引き際を難しくさせ、三市を経て津市一市に絞り込んだ。「一市でも経営は困難」というのが関空の例を踏まえた県の認識だったが、津市に決め込んで条件設定の慎重さに欠け、当時松阪市長だった野呂昭彦氏に付け入る隙を与えた

▼それでも県は門前払いしていたが、野呂氏の知事転進で一変。たちまち松阪港もアクセス港に加えてしまった。四日市市、伊勢市が抑えが効かなくなり、合併債などを財源に猛進して失敗。伊勢市長が職を棒に振るおまけまでついた

▼津の海上アクセスは順調かどうか。県の政治力のなさと、県民そっちのけのご都合主義、職員の保身というお役所仕事の象徴が松阪航路廃止後も残る。