大観小観

2016年7月23日(土)

▼伊勢志摩サミットで報道機関の取材拠点になった国際メディアセンターの解体工事が始まった。建設費用が二十八億五千万円。三日間使って解体するための費用が三億円。さすが経済大国というべきか、もったいない精神とは別世界の出来事だ

▼鈴木英敬知事は何というか。一カ月前の記者会見でスケジュールを聞かれ―。「基本的には外務省と国交省の事業なので、ちょっと私分かりません。もったいないですけど解体に向けてやっていくということだと思いますけどね。いつまでにどうするというのはちょっと私分かりません」

▼いささか冷ややか。サミット開催前の二十二日にはセンター完成を祝って県民会議主催で菅義偉官房長官らを招いて記念祝典を開き、同会議会長として県の魅力の発信へ期待を込めてあいさつしたが、消えゆくものに感慨はないか。五日前まで地元小学校の見学会が開かれていたが、触れもしなかった

▼ポストサミット事業として、国際会議誘致をあげながら払い下げを検討しもしなかったのは、平成六年のまつり博で恒久施設としてサンアリーナを建設。国際会議誘致をポスト事業としてあげながら運営コストをもてあまし、建設時の県幹部の無策批判の中で指定管理に委ねてしまったことの後遺症かもしれない

▼上野新都市(現伊賀市)に県施設としてスポーツセンターを建設。市に運営させようとして大反対されて市の指定管理にしたのも、サンアリーナを教訓にする地元県議らの強硬な主張からだった。志摩市はそんな経緯を知ってか知らずか。サミット記念館は、運営を担うようだ。

2016年7月22日(金)

▼伊賀市庁舎の新築移転事業で、移転に反対する市民団体が土地収用法に基づく事業認定の取り消しを、県に審査請求した。「移転ありき。大変な怒りを感じている」と団体代表

▼言われるだけのことはある。市が許可する農地法上の農地転用と、県建築開発課が所管する都市計画法上の市街地調整区域の開発許可、県公共用地課の事業認定、という三つの法律に分かれる別々の規制が、そろって十九日に認められているのだ

▼「関係法規の審査の進展状況は調整するが、審査はそれぞれ独自。他の審査結果に判断が左右されることはない」と県建築開発課。が、県事業認定審議会で四月、事務局の県公共用地課は「開発許可と農地転用許可が同時となります」と説明している。どちらも許可されるので、お含みおきを、と言っているようなものだ

▼市民団体代表は「市街化調整区域に移転することは都市計画法違反」とも。行政庁舎の調整区域内建築は例外として認められているから「法違反」が何を指すかは分からぬが、やはり移転か現地整備かでもめた鈴鹿市で、十数年前だが、こういうことはあった

▼JA鈴鹿に隣接する市街化調整区域に移転する提案が一時有力だったが、沙汰やみになっている。規制する立場の市が自ら建設しては、法に違反しないからといっても示しがつかない、というのだ

▼「国のコンパクトシティ構想に反する」「(都市機能分散は)二十年前ぐらいの考え方」「市計画が適正かどうか議論の余地がある」など異論百出していた県事業認定審議会だが、三カ月後の次の会議では認定でまとまった。

2016年7月21日(木)

▼庁舎建設で、強制的に土地収用ができる事業申請は全国的にも珍しいという。されど庁舎、という見方はあろうが、たかが庁舎である。そこまでしなければならないのか

▼伊賀市庁舎の新築移転事業である。市管財課は言う。「合併特例債の使用期限が迫り、強制取得も想定して事業認定を申請していた」。資金調達のための申請だというのである。認定した県は、公益性が理由だとして「早期施行の必要性は高い」。なれあいの匂いが漂ってこないか

▼対象の土地は優良農地約一万三千七百平方メートルを含む約一万九千五百平方メートル。市は県の認定と同日、建設予定地の農地転用を許可したという。市農業委員会での審議は終えていたということか。申請時の二月段階は二ヘクタール未満は県の許可権限。四月からの権限移譲で市へも移譲されたが、それを見込んだ手続きか。手際がよすぎるというのもどうかなという気はする

▼開発を禁ずる市街地調整区域を変更するだけの都市計画の持ち合わせもなく、広がる優良農地に県の伊賀庁舎と伊賀市役所が二つ並んで威容を誇る。自治体に任せると農地がどうなるかを象徴する風景とならぬか。強制収容になったらその感はさらに強まる

▼「伊賀市役所庁舎整備を考える市民の会」が反対意見を提出する。市議会の移転条例可決で対立は解消されていなかったらしい。「地権者と折り合いが付かなかった場合の申請」(市管財課)とは、宣戦布告の意味もあったか。移転でも現地整備でも、どちらでも当てはまる「公益性」を理由にした県は、おもしろくして高見の見物をするつもりかも知れぬ。

2016年7月20日(水)

▼東京で新聞を買って都知事選報道を見ようとしたが、主力三陣営の選挙事務所の様子が散見されただけ。県に帰り本紙を見ると、街頭演説での主張などがかなり詳しく載っていた。おかしな気がしたものである

▼三人続いて任期途中で辞任。うち二人が政治とカネの問題で―。片山善博元総務相だったか、新聞もだらしないと言っていた。特に舛添要一氏は国会議員も務め、政党も率いている。金銭感覚など分かっていそうなものだが、というのである

▼一年余の東京支社勤務で、都政はむろん特別区がどんな活動をしているか、新聞がまったく報じないのに戸惑った。東京に全国紙はあるが地方紙はないからだと思い至った。県での三重版に代わる首都圏版などの一、二ページはあるが、民間の行事、催しだけだ

▼都庁にかなりの記者が常駐しているに違いないが、載らないテーマに関心を持てるはずもない。三代の知事や都議会に人もなげな発言が目立つのは、行政の監視役を自任する新聞がその機能を果たしていないせいがあるのは確か

▼心ある記者は週刊誌に情報を流すしかないのかもしれない。その新聞が二代続いた知事の不祥事辞任について、人気者を選んできた有権者にも責任があると分析していたのはおかしかった。都政を語らぬジャーナリストや、消滅可能性都市の問題提起をしながら促進側の知事になろうという元総務相、都議会解散など、劇場型選挙の申し子の元防衛相

▼有力三候補の主張を点検せず、勝敗予測報道をするばかりで人気投票を促す。都民の不幸は地方メディアを持たないことかもしれない。

2016年7月18日(月)

▼自民候補を応援した非難には平静な鈴木英敬知事も、新聞の分析にはカチンときたらしい。「何か(知事の)拠点の鈴鹿で一万票離されているという書きぶりもありましたけど」

▼野呂昭彦前知事は「県にしっかりした地盤がある」とうらやましがっていた。案外弱い、と思われて離反者が続くことへ、危機感を募らせたのかもしれない

▼東北大地震と福島原発の地元東北六県で、秋田を除いて自民が全敗。現職の法務大臣まで落ちたとなれば、復興政策への不満爆発と映るが、地元紙論説記者によると、法務大臣就任が遅過ぎたという。「もともと選挙基盤は弱い。その対策の大臣起用が見え見えなんだからもっと早くして生かさなきゃ」

▼遠くの火事は大きく見える。沖縄・北方担当大臣落選も、国政選挙連勝で、辺野古移転反対の県民の固い意思を示した、という見方には地元紙は懐疑的。県外移転を公約に当選して県内へ変節したことへの裏切りという属人的理由で、沖縄は反自民一色みたいな説は否定する

▼たとえば十八、十九歳の投票行動。圧倒的に自民で、経済を重視。「基地問題」「沖縄戦の思い」も、世代間で相当な断絶があるらしい

▼全国同様、県にも参院選で風が吹いた形跡はない。知事の応援の反感はよく聞くが、どの程度県民感情を逆なでしたか。県民党の衣の下はもう見せてしまったのだから「今回は特別」「自分なりの大義」の理屈を編み出し、今後も挑戦して、新聞分析の正否を確認するのも一興

▼勝者への訪問は「逆に県民が戸惑う」という知事だ。乗りかかった船から下りることはない。

2016年7月17日(日)

▼参院選投票日直後の十二日の知事記者会見録が県ホームページに登録されたので確認したが、やはり同選を総括するやりとりはなかった。鈴木英敬知事が自民党候補を応援したことばかり。報道陣も、偏った行動をした知事に公平公正な見方は期待できないと思ったのかもしれない

▼「僕なりの分析はまた今度」と、知事は言ってはいる。知事後援会の応援ぶりの質疑で触れたので、記者が意味が分からず「何を」と聞き返している。「今回の票の出方とか、そういうのをね」

▼国政選挙の投票行動は県民の関心事を探る重要な指標である。歴代知事はそういう見方をし、会見で語ってきた。「また今度」ではない。今でしょ、なのだ

▼与野党で争点が分かれた経済、改憲への県民意識もそうだが、特に今回は、選挙権が十八歳以上に引き下げられた初めての選挙。総務省はじめ全国の選管が結果の分析に躍起になっているというのに、県選管は投票率についてさえ「公表しない」と、異例の判断をしている。なぜか。最高責任者として、こちらは説明責任がある気がするのだが、知事の特定候補応援のあおりで吹っ飛んでしまったとしたら、これも公務への重大な影響といえないか

▼「十八歳以上」決定以降、県の選挙啓発予算はむしろ減っている。効果的予算配分の名目で、大学生の啓発参加に力を入れたが、全国の結果は十八歳の高い投票率に比べ、十九歳の低さが全体を押し下げた。県の啓発戦略は空振りだったのか。啓発に努力した自治体が投票率を上げた、と総務省。だから、県選管は非公表を決めたということか。

2016年7月16日(土)

▼民進党の岡田克也代表が条件付きで九条以外の改憲論議に応じると語ったことについて、共同通信加盟社論説研究会で「参院選総括と改憲論議の行方」をテーマに講演した共同通信論説副委員長が「どこまで考えているのか知らないが」

▼九条だけでなく、改憲問題を参院選の争点に位置づけながら、終わったとたんに軌道修正。改憲への段取りを語り出した安倍晋三首相と好一対をなすが、共同論説副委員長の「知らないが」には、むろん含みがある。表向きは緊急事態条項、合区見直しなどのどこまで応じるつもりかであり、本音の部分では「代表続投を決意しているのではないか」である

▼党内は、改憲三分の二阻止の目標未達成に責任を問う声ばかりではない。三重選挙区の勝敗に進退を懸けたのも、代表への意欲の裏返しと言えなくもない。安倍首相に「民進党の理解も得て」などと足元を見られるほど、党内には公然と九条改正賛成を鮮明にする向きもある。「九条以外の」は、そうした勢力との妥協を示唆したというのである

▼また、皇室典範の改正論議が本格化する流れの中で、改憲論議は同時並行的には進めにくいのではないかと言って、論説副委員長は「個人的な勘に過ぎないか」。微妙なところになると慎重な物言いになる長年の取材体験が導く習性なのだろう。皇室典範論議は国論を巻き込む形になり、改憲論議は開店休業状態にならざるを得ないだろうという

▼それを意識なさってのこの時期の天皇陛下の「生前退位」ご意向かと聞くと「そう考える向きは多いですね」。どこまでも慎重を極めた。