大観小観

2016年8月27日(土)

▼先日死去した野球評論家・豊田泰光さんはプロ野球西鉄ライオンズの黄金時代(昭和三十一―三十三年)を支え、野武士の異名があった

▼飲み明かして朝の練習に駆けつけ、いつの間にか率先してリード。怒鳴りつけようと待ち構えていた監督、コーチらを苦笑させたと昔、書いていた

▼プロの選手にとって大切なのは結果への本人の自覚だと教えられたから、門限を破った堀内恒夫投手を殴った読売巨人軍王貞治さんのエピソードには何をばかな、連帯責任でも取らされるのかなと思った。小市民的生活に収まりきれないエネルギーと活躍の原動力とは時に表裏の関係にあり、小市民を熱狂させる

▼だから、選手の集合時間遅刻で井上康生柔道監督が丸刈りになったというのも、というのは別の話だが、河原乞食と呼ばれた時代から芸能界は特にそういうものだったが、何しろ人気商売であり、茶の間文化のテレビと密着したため品行方正が求められるようになった。俳優の息子の強姦致傷容疑で、母親の女優高畑淳子さんが神妙に謝っていた

▼身内の行跡も仕事に影響する。小市民より大変だと同情したが、いつぞやトーク番組で下積みからようやく抜け出したが、元に戻るのが心配でNHK大河ドラマに出演しながら、テレビ朝日系の警察ドラマ『女たちの特捜最前線』も掛け持ちしていると語っていた

▼共演の高島礼子さんも、そういえば夫の覚醒剤事件で謝罪会見をしていた。主演二人の親族が逮捕されている警察ドラマを見るのも「テレビを十倍楽しむ方法」の一つと楽しみだったが、わずか六回で最終回を迎えた。

2016年8月26日(金)

▼運転中に前の車の走り方がおかしいと感じると、昔は決まって運転者は高齢者か中年女性。今は性別、年齢層が飛躍的に広がった。電話しながら、ゲームしながらのながら運転が増え、のろのろ走っているかと思うと急にスピードをあげる。後続車としてはいらいらが募る

▼ゲームアプリ「ポケモンGO」の国内配信が七月末に始まって、不自然運転はさらに多様性を増しているようだ。警察庁がまとめた配信後一カ月間の摘発件数は千百四十件

▼愛知県でベトナム国籍の女性に重傷を負わせたのは二十九歳の男性。兵庫県で自転車の女子高生二人をはねて逃走したのは四十七歳の男性。宮崎県で畑に突っ込んだのが三十五歳の男性。報道される「ポケモンGO」理由の事故に幅広い年齢層の男性が大量進出している

▼二十三日、徳島県で女性二人をはねて初の死亡事故を起こしたのも三十九歳の男性。最初は「スマホの時刻を見ていて」、のち「ポケモンGOをしていて」と供述を変えた。事故総数は同日現在、二十九都道府県で七十四件を超えた

▼報道では見かけないが、摘発件数は全都道府県でというから、三重県警も取り締まりをしてはいるのだろう。ホームページ上は、配信三日目の「内閣サイバーセキュリティセンターからの注意喚起」掲載が唯一の対策。「歩きスマホは×ですよ」とあるが、運転スマホへの喚起はない。「まさか、運転しながらは・・・」と思っているのかもしれない

▼モータリゼーションの進展で、歩道での「歩きスマホ」の危険は限定的。県事情に合わせなければ、対策は後手に回りかねない。

2016年8月25日(木)

▼リオ五輪レスリング女子69キロ級金の土性沙羅選手に県民栄誉賞、53キロ級銀の吉田沙保里選手に県民特別栄誉賞を検討していると鈴木英敬知事。松阪市も土性選手の市民栄誉賞やパレードの検討を始める。メダルの史上最多を受け、当分日本全国で似たような祝賀行事が続くに違いない

▼「諦めない心」「夢はかなう」など、多くのメダリストらが口にし、子どもたちへのメッセージとなる。メダリストが直接、子どもたちに伝える場も増えるのではないか。早めに見切りをつけるコツも、一緒に伝授してもらいたい

▼どんなに努力しても全員が夢を獲得できるわけではないどころか、銅メダルで何人の悔し涙をみたことか。そのすべてが次の挑戦の機会を得られるわけでもない。夢を達成できるのはほんの一握りにしか過ぎないことを一番よく知っているのもメダリストだろうからである

▼国は「ゆとり教育決別宣言」を出した。非正規雇用が増え貧困率は上昇。障害者差別撤廃法は施行されても自ら助くる(障害)者を(天は)助くという自立支援の流れは変わらない。ストレス社会が進展。スマホゲームもストレスを促進し、うつや原因不明の痛みとなって生命さえ脅かす環境を招いているといわれる

▼小説家の夏樹静子が全身の痛みで、仕事を続ければ命にかかわると言われて休筆三年に及んだ。抜歯したあと、食物を口に入れるたびに激痛で往生したが、歯は脳との関係が深く、ストレスで痛みに悩む人は多いという

▼夢は一つではない。早めに別の道をとメダリストが言えば、大方の子どもの生き方は豊かになろう。

2016年8月24日(水)

▼津市美杉総合支所の男性臨時職員が市営宿泊施設の釣り銭約九万円を着服したとして、市が警察に被害届を出した。江戸時代の「鳥羽絵」と呼ばれる一種の漫画『軽筆鳥羽車』に描かれた「猫にかつお節」の項を思い出してしまう

▼平安末期の国宝の絵巻『鳥獣人物戯画』の作者とされる鳥羽僧正のいたずら好きな性格と絵のタッチが似ていることでその名がある。猫がかつお節にかぶりついた途端、かつお節を置いて隠れていたのであろう悪ガキ連が飛び出してきて「そりゃとったはとったは。ぴしゃぴしゃはなさぬか」とはやし立てる図である

▼臨時職員は五十六歳で今年三月採用。六月末までは一人で施設を担当し、金庫の鍵を預かっていた。支所長の「一人体制の日も臨時職員に釣り銭の管理を任せっきりにしていたのが原因」説はこの期間を指すのかどうか。発覚は今月十八日、別の職員が五万円あるはずの釣り銭が五千円しかないことを発見した。六―八月に計四回、釣り銭の着服を繰り返していた

▼金庫と鍵を預けて物陰に隠れ「今に取るぞ、取るぞ」とにやにやして眺めている悪ガキ連に、市が見えてしまうのである。発覚した翌十九日、臨時職員は無断欠勤。パチンコをしていたところを見つけられた。着服した金も「パチンコや飲食代に使った」

▼日本でギャンブル依存症の大半はパチンコが原因といわれる。猫にかつお節ならぬパチンコ依存症に金庫である。猫と悪童はどちらが底意地が悪いか、パチンコ依存症に市、ではどうか。いたずらっ子の愛きょうはなく、危機管理の不備ばかり浮かび上がる。

2016年8月23日(火)

▼リオデジャネイロ五輪が十七日間の幕を閉じた。新聞・テレビが五輪一色の感で、長い祭りだった気がする。特定の競技にだけしか関心がない向きはいいが、報道の加熱に引きずられて、のめりこんだ人も少なくなかったのではないか。ちょっとした虚脱感に見舞われているかもしれない

▼関心ある競技での日本人の活躍には興奮するが、史上最多のメダルを獲得にはメダルの数に一喜一憂する風潮にうんざりもする。かつての卓球王国、水泳日本、東洋の魔女の出現でその競技に熱中した小中学生時代を思い出すと、メダルを取れる競技がそれだけ増えたことは喜ばしい

▼リオ五輪が、ブラジル国民にとってどんな意義があったのかは関心事だった。史上最悪の政治・経済危機といわれ、五輪開催批判の声も多かったとされるが、加熱報道はそちらの方は消し去ったようでよく分からなかった

▼米金メダリストの強盗被害虚偽通報事件は奇っ怪な出来事だった。どこの国にも常識のないスポーツ選手はいるようだが、ブラジルの治安に便乗したこと、当局が確認より先に即座に陳謝したことがブラックユーモアを見るようではあった

▼平成四年のバルセロナ五輪はセビリア万博と重なり、世界がちょっとしたスペインブームで県内でもスペイン協会ができ、バレンシア州と県州姉妹提携し、スペイン村構想が生まれた。サッカーW杯に続く五輪で、サンパウロ州との友好提携が長い県として何らかの動きも、声さえもあがらなかったようなのは意外だった

▼ブラジルに目を向けて県に得はないと見切っていたのかもしれない。

2016年8月22日(月)

▼「選挙の時の話ですから」と、北川正恭元知事はしばしば口にした。扇動型演説は絶品で、対立候補への攻撃は激しかったが、選挙後は「選挙の時はまた別」などと言って、発言にこだわらなかった

▼県議時代は北川新派として活動した民進党の芝博一参院議員だが、選挙の対応は、違う意味でまた別ということなのだろう。参院選の余熱がまだ冷めやらぬ中、相手候補を全力応援した鈴木英敬知事を批判せねば支持者も収まるまいが「揚げ句の果てには負けた候補者を訪れた」とも

▼鈴木知事が敗れた相手候補を開票日に訪れたことを指すのだろうか。「勝負は兵家の常」「勝敗は時の運」という。現代の戦争にもたとえられる選挙戦は、敗れたとたんにクモの子を散らすように人は去るのが現実だが、きちんと訪れて慰めたり、自身の力不足をわびるのは、客観的に見ると人としての道といえないか

▼帰りに芝議員を訪ね祝福すれば鈴木知事も政治家だったが「勝った方にっていう姿勢を逆に県民が戸惑うんじゃないか。さすがにちょっと」とためらってしまったのはいまだしだが、青年政治家としてはまた別の評価もあろう

▼敗者には手のひらを返せと、芝議員は言うのだろうか。それだけ、選挙の恨みは深いということかもしれない。県議会の民進党系会派「新政みえ」の三谷哲央代表は一般質問で「知事の答弁を聞いて対応を考えたい」

▼投票日前の抗議文提出後の会見では九月県議会までをめどに問責決議案の提出を判断するとしていたが、こちらは「(あれは)選挙の時の話ですから」ということかもしれない。

2016年8月21日(日)

▼聴覚障害者に対する災害対策について聾学校の生徒が質問したのに対し、県議会の小島智子・健康福祉病院常任委員会委員長は県議会が手話言語条例を制定したことを紹介した

▼みえ高校生県議会。報道の範囲内で、やりとりの一部にではあろうが、ちぐはぐさは否めない。たとえば県は熊本地震発生に伴い「見えてきた主な課題」をまとめた。この中で、東日本大震災で国が設置を促した要介護の高齢者や障害者らが個室で過ごせるスペースに配慮した福祉避難所について、県は運営マニュアル策定や個別避難計画作成、避難所外避難者への支援などの市町との検討が必要だと総括している

▼生徒らが聞きたかったのは、災害のたびに指摘されるそうした問題の対策の現状ではなかったか。これに対し、議会側が議員提案の手話言語条例制定を紹介したのは、議会活動の周知を目的とした「高校生県議会」の性格上、当然と言えなくはないが、同条例は共生社会の実現が目的。災害対策とはまた別だろう

▼神戸高が奨学金をめぐる問題について質問。「学生を支えるはずの奨学金が逆に利用者を苦しめ」ているとして無利子化や授業料減額などを求めた。議会がこの三月、国に「奨学金制度の充実等を求める意見書」を提出した方向と同じ。産業を担う人材確保と若者の地元定着を目指して約一億五千万円を要求した給付型奨学金を南部地域限定の四百三十万円に査定した知事にこそ、聞いてみたい内容だ

▼議会機能の第一は県政の調査権。高校生にその使命・魅力が、理解されたかどうか。運営法の工夫が必要な気がする。

2016年8月20日(土)

▼送り火は終えても帰りかねてリオの空にとどまる故人も多いか。リオ五輪レスリング女子53キロ級の吉田沙保里選手は一昨年急逝した父・栄勝さんが一緒にマットに上がっている「不思議な感覚」を決勝の前に語っていた

▼栄勝さんは自身のレスリング道で教えた69キロ級の土性沙羅選手のもとへも訪れたらしい。戦い前の調整会場で「大丈夫だよ。いつも通りにやれば」の声が聞こえた気がしたという。二人を力づけた霊はしかし、まな弟子に金メダルをもたらし、五輪四連覇の偉業に向かうまな娘には厳しかった

▼まさかの決勝敗退である。「最後には父が助けてくれるかなと思ったのが間違いかな」と泣きじゃくった。父との四連覇の約束、日本中の期待、五輪選手団主将として「金メダルは絶対」―それらに応えられずに申し訳ないを連発しながら、勝負以外の重圧の大きさを、はしなくも吐露していた

▼栄勝さん死去後の昨年の世界選手権決勝は辛勝。「不安だった。途中で負けるかと思った」と泣いた。「取り返しのつかないことをしてしまった」という今回の敗戦の弁と重ねると、強まる重圧の中でがんじがらめになっていく心の動きが何となく見えてくる。父に頼ることで精神的バランスをとっていたのかもしれない

▼同じく四連覇のかかった58キロ級の伊調馨選手は残り時間三秒で逆転勝利し、猛獣のような目で「母が助けてくれたのかもしれない」。遺影に毎日声を掛け出るという。愛する者がいて強くなれるが、愛する者に頼ることはできない―非情な勝負の世界。勝負の神が女神であることも分かる気がする。