’06 「万古不易と豹変」

ニューヨーク、プラザホテル一階ラウンジにて。和服を着ていたおかげでマネー ジャーが、「今から弦楽四重奏を演ずるがリクエスト曲があったらお受けします。」と 言ってくれました。「ダコタ・ハウスに行ってきましたからジョンレノンのイエスタディ をお願いしますと頼みました」曲の演奏が始まりますと、それまでそしらぬ顔をしていた ラウンジの貴婦人たちから声にもならぬさざなみが起こりました。

 三重県民の皆様、明けましておめでとうございます。昨年より東京を中心として経済の回 復が実感されつつあるように思われます。東京発の新幹線におきましては普通車の満席が 相次ぎ、グリーン車もかなりの充足率であります。新宿駅の東口はバブル経済のころを髣 髴(ほうふつ)とさせる人出で、週末の夕方になりますと歩行も困難を極めるようになっ ています。

 経済の行く手を半年早く予見するのが株式相場だといわれてきました。昨年末の株式相 場の上昇は好況を予見しているのでしょうか。都会の地価上昇もあいまって、ミニバブル だとの声も出てきている昨今です。若者を中心にデイトレーダーも大量に増えていること はご案内の通りです。相場は必ず過熱し狂乱状態になるまで留まるところを知れません。

 日本国民は今度こそは節度を守れるのか、それとも再び大混乱となるのでしょうか。熱 しやすくさめやすい国民性は変わることがないのでしょうか。

三重県産の陶器に万古焼きがあります。元文年間に桑名の豪商沼波弄山(めなみろうざ ん)が桑名の小向(おぶけ)で創業したものです。製品に「万古」あるいは「万古不易」 と捺印したため、万古焼きと称されるようになりました。弄山窯の作品が「古万古」と呼 ばれ、松阪の射和(いさわ)は竹川竹斎邸に作られた窯で焼かれた「射和万古」、明治以 後四日市で量産される「大正万古」、「新万古」があるのは三重県民の皆様ならご承知の 通りです。

 同じく江戸時代、伊賀上野の住人松尾芭蕉が「不易流行」を唱導したのは「万古不易」 の文言が当地域をおおっていたからなのかと愚考する次第です。

 万古焼きは文字通り、万古に不変に形をとどめています。「不易流行」とは「変わらな いものと移り変わるもの」というテーマに結実して、私たちに考えさせるものを永遠に投 げかけてくれます。

 「万古不易」という言葉と対比して思い出すのが「君子豹変」という語です。

 これは「君子は豹変する」という易経から採られた言葉です。これは俗に考え方や態度が 一変することに使われていますが、本意は以下のごときものです。「君子はあやまちを改 めてから善に移るその移り方が極めてはっきりしている。」つまり、善の方向に移らなけ れば君子ではない、ただ変わればよいものではない。時代に合わせて換わればよいもので はないとの意です。易経ではこの語の反語として「小人は革面す」と記述されています。 つまらない者は、いったん人前に出してしまった自分の意見を後から引っ込めたり修正し たりするのは、体裁や体面が悪いと考えるものであり、明らかに間違っていると気づいて も、言い訳や詭弁をふるって押し通そうとする。また小人は顔では改めたように見せて も、心の中ではまったく改めない。石原産業のフエルシルト疑惑や耐震強度偽装事件の関 係者の言動は易経に当てはまるものではなかったでしょうか。

この六十年を回顧しますと、軍国主義の時代から共産革命を信じていた人々による混乱 のときを経て、高度成長時代から大不況を経験し、市場主義が唱導された後の、今ポッカ リと訪れたつかの間かも知れぬ好況に少しだけ和らいでいるニッポン、という見方が大筋 では的を射ていると信じます。国の借金問題、年金問題も抱えていますが解決の燭光は見 えてきたようです。新春に当たり昭和天皇の御製の和歌を詠ませていただいて、本年の挨 拶とさせていただきます。

 「ふりつもるみ雪にたえていろかえぬ松ぞおおしき人もかくあれ」