「四名様、八番テーブルに入りますー」
「いらっしゃいませ!」
案内担当の生徒が合図すると、フロア・厨房すべての生徒が、元気に声を揃えます。
「まあ、このお店で働いているのは、全部高校生ですか。これはまたさわやかですね!」
お客さまは、生徒たちの気持ちの良い対応に感動されたようです。
テーブルはすでに満席で、厨房は目が回るような忙しさ。
この店では、お客さまが席に着かれてから八分以内に必ず料理を出すことを目標にしています。それには、生徒同士の連携をしっかり取っていくことが大切です。
「天ぷら、あがります!」
その声と同時に、熱々の旬野菜の煮物などをセットした盆がサッと出され、みそ汁と天ぷらが盛られます。時を移さず、サービス担当の生徒がテーブルまで運びます。
「お待たせしましたー」
「これは美味しそう!これあなたたちが作ったの?」
生徒は満面の笑みで答えます。
「はい!この 『まごの店』は、相可(おうか)高校・調理クラブが運営しているお店なんです!」
そう、ここは、調理からサービス、メニュー考案から会計管理まで、すべてが高校生によって運営されている、日本で唯一の「高校生のレストラン」なのです。
学業が優先の高校生のため、営業日は、土、日、祝日、学校長期休暇日となります。
生徒は、食物調理科の学生として料理の勉強に励み、その成果を「まごの店」で発揮するのです。
営業日には、開店前から何組ものお客さまが並び、常に店内は満席という地域でもトップクラスの繁盛店です。
「今の高校生は元気がない」
「夢を見失っているんじゃないか」
そんなふうに感じている方は、ぜひ「まごの店」に来てください。彼らはやる気がないわけでも、あきらめているわけでもありません。
目標さえ明確に持てれば、夢中で頑張るのです。
普通、調理師には、芸の道といっしょで師匠がいます。師匠に、技術面だけでなく生活の一部まで指導していただき、その人の技を伝承するのです。
しかし私には師匠がいません。そのかわり、人生の節目節目には、かならず大切な恩師がいました。
今、私の生徒に対する教え方は、けっして自分だけで考えて実行しているのではありません。すべて私が教えていただいた先生方のまねをしているだけです。
一生懸命料理の心を教えるのは、私を教えてくれた先生方へのあこがれと、お礼の気持ちからでもあります。私の教え子にも、私の恩師が私に与えてくれた感動を分けてあげたいと思い、必死でつき進んできたのです。
「まごの店」は、社会で即戦力となる料理人を育てるために最高の環境です。それが実現できたのも、私の想いを理解してくれ、助けてくださった多くの方々がいてくれたからこそです。
高校生を応援してあげようと、大きな心で支え育んでくれた、地元多気町の方々に感謝の気持ちを込めて、この本を記します。
三重県立相可高等学校食物調理科専門調理師教諭 村林新吾